緑色の⑮
クリスティーナは、出来るだけ明るく振舞った。ここで気分を落とし込んだとしても、何一つ良い結果を生まないからだ。
ただ、収穫はデュバラ・デフーの人間の姿が、思った以上に男前であったことだ。彼は彼なりに刺客として目立たぬ人生を歩んできたようだが、妙齢の女性からすればひと際の存在である。何せ、この鍛え上げられた肉体に、均整の取れた全身のバランス。あの羽間正太郎を野生の虎で例えるのなら、このデュバラ・デフーはアフリカの大地を駆け巡る黒豹の如き洗練さである。言うなれば、あの化け物の姿と比べれば雲泥の差の見た目なのだ。
「大分先程とは違って、気持ちが落ち着いたようだな。クリスティーナ・浪野」
「あら、これからはクリスでいいわよ、デュバラさん。私たちは逃げも隠れもしません。一度お約束した身ですからね」
「ふむ、良い心がけだ。それであの小娘……いや、小柄な女性はどこに?」
「いるわよ、ちゃんとね。だってあなたの目的は、私なんかより小紋さんの方なのでしょうから」
「い、いや……、そんなことはないぞ、クリスティ……いやクリス。あの小柄な女性には、単に彼女に備わっている性質的な特性の部分に興味があるだけで、女としての興味はこれっぽっちも抱いておらぬからな。女という興味なら、あんたのような大人びた雰囲気のある女性の方が、俺は確実に興味を惹かれる」
「あら、まあ。本当にお上手ねえ。そうやって何人の女の人をたらし込んで来たのかしら?」
「たらし込んできてなどおらぬ。それなりに言い寄って来る女官の類いは多かれど、心に決めた女性としか俺は付き合わぬ」
「ふうん、そうなんだ。結構真面目なのね。それで? その心に決めた女性はどこに?」
「うむ、それはな……。先の戦乱で命を落としたのだ。将来を誓い合った仲であったが、奇しくも先立たれてしまった……」
「そ、そうだったの。私、悪いこと聞いちゃったかしら。ごめんなさい。つい調子に乗り過ぎたようね……」
「良いのだ。もう過ぎたことだ。過去にこだわり過ぎて、この俺もあの戦乱が収まってから余裕を無くしていた。俺の方こそ許せ。お前に余計な気を遣わせてしまったようだ」
何という事だろう。クリスティーナは、まるで暗殺のプロであるこの男に次第に心惹かれていることに驚いていた。
見た目の年齢から察すれば、この男が自分の父親を手に掛けた張本人でないことは解かる。しかし、その暗殺集団の一員であることには変わりはない。
にもかかわらず、次第に異性としての魅力に取り込まれつつあるのが自分でも抑えきれないのだ。
(もしかしたら、これも彼らの術によるものなのかもしれない……)
そう感じながらも、彼女の心はデュバラ色に染まって行く。
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