緑色の⑬
クリスティーナは、一旦プロテクトスーツを脱いで仕舞い込むと、いかにも一般人を装うように身だしなみを調えた。
(今の場面はこれで切り抜けられたけれど、このままあのデュバラとかいう化け物が大人しくしてくれるのかしら……)
洗面台の鏡に向かいながら、彼女は自分の仕出かしてしまったことが余りにも常軌を逸していることに後悔していた。
あのまま非常階段の扉を開けていれば。あのまま鍵が壊れていると嘘を吐いてまで舞い戻らなければ。彼女らは何の障害も無く逃げ切れていたのかもしれない。小紋をこのような混沌に巻き込むことがなかったのかもしれない。
自らの過去を清算するかのように、感情の赴くまま敵方の刺客と言葉を交えてしまった。そして、あなたについて行くとまで言ってしまった。結果、過去を清算するどころか、話をややこしくこじらせてしまった感さえある。
(これで私はもう、マリダ様や大膳様の所へ戻れない……)
彼女が、洗面台に手をついて首を振ったところに、
「あ、あの……、クリスさん……」
小紋がぼやけた瞼をこすりこすりしながら、洗面室の扉を開けて入って来た。
「小紋さん……、私……」
振り返り際、彼女は何て言って答えればよいか言葉が思い浮かんで来なかった。
ホテルの隣の部屋には、あの化け物のデュバラがいる。ここで逃げ出そうとしても、音や雰囲気で感づかれて、また元の木阿弥になってしまうやもしれない。
「ごめんなさい、小紋さん。私、あの時……」
「ううん、いいの。ここで僕が生きているってことは、きっとクリスさんが色々と考えて窮地を乗り切ったってことだもん。ね? それでいいよね」
「小紋さん……」
クリスティーナはドッと感情が溢れ、小紋の小さな体にしがみつくように泣き出した。
確かに女王マリダやあの化け物が言った通りだ。この娘には他の人と違う何かが備わっている。何か人を惹きつける力が備わっている。クリスティーナは、膝をついて延々と泣きじゃくった。相手が年下だとか小柄だとかは関係ない。ただ今は、彼女の優しさに促されるまま、その優しさにすがりついて、ずっと甘えていたい気分だった。
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