緑色の⑪
彼は、組織の禁忌を犯して〝珠玉の繭玉〟を持ち出した。挙げ句、己が意地を通す為だけに人類の次なる進化を試みたのだ。そしてこのような人間らしからぬ大仰な姿になったわけだ。
だがしかし、だからと言って、この目の前に居る標的の小娘を闇に葬れるという確証が出来上がったわけではない。極論からすると、ただ己が嫉妬から来る独断専行の為にかたち上のみの進化を遂げたのだ。こんな矛盾が許されるものだろうか。
さらに彼女の申し入れには一理あった。ここで殺さなくとも、彼女らを傍に置いておけば、闇に葬れる確率は跳ね上がる。そして、目の前の小娘の特殊な力の正体を見極める事が出来るかもしれない。
特に数々の歴戦を潜り抜けていた〝智〟を司る人工知能パールヴァティー。その意識がデュバラに語り掛けるのだ。
「この一瞬だけを見つめるべからず」
と。
デュバラは、組織の禁忌を犯したために、もうアヴェル・アルサンダールらの元へは戻れない。ただ己の意地を通す為だけに熱くなり感情の赴くまま仕出かしてしまったことなのだ。
今となれば、なんと愚かな考えであったのだろう。そう後悔するも、やってしまったことに対して後戻りは出来ない。ならば、この目の前の女が放つ言葉通りにして、そこに横たわる小娘の力とやらを見届けるのも悪くはない。
「女よ。貴様、名は何と申す……」
「クリスティーナ……。クリスティーナ・浪野よ」
「ふむ。クリスティーナか。そして、そちらにいるその小娘は……」
「彼女は……彼女の名前は小紋。鳴子沢小紋さんよ。だけど彼女は小娘なんかじゃない。なりは小さいけれど、れっきとしたレディなんですからね。もし変なことしたら本当に承知しないわよ」
クリスティーナは、横たわる小紋の身体を抱き上げてニヤリと笑う。「それであなたのお名前は? 緑色の身体をした化け物さん」
デュバラの眉間が一瞬だけ歪んだが、
「我の名はデュバラ・デフー。理想の進化を遂げた元人間だ」
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