緑色の⑩


 それは、今現在クリスティーナの傍で横たわる小紋にも言える事であった。

 なぜ、彼女はこんなにも小さな体であの厳しい世界を生き残って来られたのだろうか? なぜ、鳴子沢大膳の最愛の娘はこんなにも強運なのだろうか?

 その答えは、クリスティーナ自身が最初から知っていたことだ。解かっていたことだ。

「ねえ、そこのあなた! 私のお父さんを殺したかもしれないそこのあなた! 私をあなたの所へ連れて行って! 私は、あなた達の目的の意味が知りたいの! それまで私は死にたくないの! ねえ、お願いだから私をあなたと一緒の所へ連れて行って!! 私を殺すのだったら、今でも先でも構わないでしょう? その代わりに、ここにいる小紋さんも一緒にあなたに差し出すから。ねえ、どうなの!? 聞こえてるの!?」

 クリスティーナは叫んだ。

 冷静に鑑みても、今この目の前のと一戦交えて勝てる見込みなどない。それならば、敵方の第一の標的たる小紋を無傷で差し出す方が得策だと考えたのだ。いや、それは建前で、もしかするとクリスティーナの本心は、別にあるのかもしれない。

 だが、その本心とやらは、当のクリスティーナ自身にも計り知れなかった。ただ、今はこの状況を生き延びて乗り越えたいという一心から、あんな内容の言葉が飛び出してしまったのだ。

「そちら側のメリットはあるはずよ。きっとあなたは、ここにいる小紋さんの命を狙っていたのでしょう? けれど、それが今まで叶わなかったはずよ。それが証拠に、こんなお膳立てまでして未だに仕留められないでいるもの。だって、私のお父さんの時はそれが全く違った。あの時はものの数秒間の出来事だった。つまりあなたは、小紋さんの特殊な何かで命を仕留められなくて四苦八苦していたってこと。それならば、私のこの提案を受けるべきだわ。この条件を飲めば、私や小紋さんの命をいつだって絶つことが出来るでしょう?」

 多少強引な申し入れではあるが、言って見る価値はある。生き残る術は、何も直接戦って傷つけ合うだけが方法ではない。

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