青い世界の赤い㊿

 そして、

「さあ、出てらっしゃい!! そこに居るのは解かっているのよ、黄金の円月輪!! 面と向かって洒落た口説き文句も囁けない男が、こんないい女を落そうだなんて時代錯誤もいいところだわ! そうやって離れたところからウジウジこっちを窺っていられるほど、煙ったいものは無いわ! どんな時代が来たってそんなんじゃそっぽを向かれるだけよ! いにしえの暗殺組織だか何だか分からないけど、それじゃまるでストーカーの変質者行為だわ! さあ、今の言葉に言い返したいことがあるんだったら、とっとと姿を現しなさい!!」

 と、彼女は唐突に歯切れのよい啖呵たんかを切ってみせた。

 普段ならこんな馬鹿げたことを言うはずのない彼女であったが、今は形振なりふり構えない。本来なら救うべき対象の小紋を裏切るような形で気絶させたのだ。敵が喉から手が出る程のを撒いた手前、こちら側とて強引にその意味合いを回収せねばならない。

 クリスティーナは固唾を飲んで、ジッと息をひそめた。今の言葉に応えるところがあれば、敵とて何らかのアクションを起こして来るはずだ。

 その時である。静寂をまとうこのフロアの中で、微弱な風の揺らぎが彼女の頬を襲った。

(く、来る……!?)

 卓越した感覚を持つ彼女でなければ気付かなかった。そのは、一筋の光を伴って目にも止まらぬ高速の光輪を打ち出してきた。

「エイッ!!」

 クリスティーナは、振り向きざまその光輪を素手で払いのけた。

「熱っ!!」

 払いのけたと同時に、クリスティーナの手に凄まじい痛みの感触が走る。

(何てこと! これは今までのような金属の武器じゃない。まるで光を帯びたエネルギー体の輪っかだわ……)

 案の定、彼女の美しい手に、それを触れた部分だけ真っ赤な火傷の痕になっている。そしてフロアの真っ赤な絨毯も、光輪が通った場所だけ黒く焼け焦げている。

 次第に辺り一帯の空気は、燻されたような焦げ臭さで充満していた。光輪は彼女を狙わず、予想通り気を失った小紋に向けられている。

「そういうことね。これからがアナタの本領発揮なのね。なら、上等よ。受けて立とうじゃないの。私のお父さんを殺した黄金の円月輪!!」




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