青い世界の赤い㊻

「クリスティーナさん。私は、出来る事なら以前の生活に戻りたい。あの頃のように、小紋様や正太郎様たちとともに、厳しかったけれど、それでも活き活きとした日常に戻りたい。……でも、今はそれが叶わぬ夢になりつつあることを理解しているつもりです」

 マリダは、特別謁見の間で二人きりで対面で座していた。しかし、そうは言ってもクリスティーナは床に片膝をついている。

「ええ、そのお気持ちお察しいたします、マリダ陛下」

「クリスティーナさん、今は二人きりです。陛下だなんてそんな堅苦しいお言葉遣いはお止めになって頂けませんか?」

「いえ、それは出来ない注文で御座います、マリダ女王陛下。この国がここで成立した以上、貴方様はもう我々国民のための女王陛下以外の何物でもありません。そして、不肖ながら私クリスティーナ・浪野は、女王陛下に忠誠を誓う親衛隊の一人として終生を全うする所存でございます」

 クリスティーナのその言葉は、紛れもない真意であった。

 鳴子沢大膳が中心となって掲げたこの国の旗印は、人間の自然発生的な役割分担という特性を活かすための最適な配置を基本としている。その最適な配置の頂点の重責を任されたのが、アンドロイドとしても飛び切り優秀なマリダ・ミル・クラルインの役割なのだ。

 マリダは、大膳の掲げたその真意を心底理解していた。どんなに平等だの人権だのと綺麗ごとの言葉を並びたてられようが、人間という生き物は完全で完璧な平均化に対応し切れない。それが自然の摂理であり、この宇宙全体の摂理であるからだ。

 この世に生まれ出てきたときから、全ての生き物は不平等な形でその生を受ける。それこそが自然の成り立ちであり、逆説的に言えば、そこに自然発生的な生物が、集団として存続するための意味があるからだ。そして、その生まれ出てきた〝不平等の割合〟こそが、集団を維持するための核となるのである。

 それゆえに、マリダはその重責を断れなかった。彼女が、彼女自身としての役割として当てはめた時、それがこの新国家を支える基盤となることを理解していたからだ。

「マリダ陛下。不肖ながら、このクリスティーナ・浪野。これからも陛下のお手伝いをば陰ながらさせていただくつもりです」

「ええ……。クリスティーナさん。その言葉、大変心強く感じております。それで早速なのですが、私の我がままを、そのお言葉に甘えさせて頂いても宜しいでしょうか?」

「は、何なりとお申し付けください」

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