青い世界の赤い㊺


「それよりも小紋さん。貴女に言っておかなければならない事が一つだけあったわ」

「え、それは何ですか?」

「羽間さんは今でも健在だということ」

「え、ええっ……!? それは本当ですか!? ホントにホントにホントなんですか!?」

 小紋は思わずクリスティーナに飛び掛かるように問いただして来る。クリスティーナも、余りの過剰反応に驚きを見せつつ、

「え、ええ……、その情報は間違いないわ。だって、私が直接彼に関わった事なんですもの……」

「え? 直接?」

 小紋はそう聞いて、思わず眉間にしわを寄せた。

「そ、そうよ。私は大膳様のご命令によって、羽間さんの看護やリハビリテーションを行ったのだから間違いないことよ」

「ふ……ふうん。じゃあさあ、クリスさん。……もしかして、さっき言っていた猛獣みたいな男の人って、まさか……」

「あ、あの……誤解しないでね。私たちの間には何も無かったわ。ちゃんと足枷あしかせや電子手錠も付けて自由を束縛していたから」

 そう言いつつも、クリスティーナは、何か満更でもない雰囲気である。小紋は、そんな彼女の醸し出す匂いを感じ取ってか、

「あーあ、やっぱり僕ってそんなに魅力ないのかなあ」

 と、ふてくされたように口を尖らせて天を仰いだ。

「だってさあ、聞いてくださいよクリスさん。僕はあの人と結構一緒に個人レッスンを受けたり、危険な夜のサバイバル訓練に明け暮れたりしていたんですよ。それなのに、あんな長い時間共にしていたのに何もなかったんですよ! 僕だって、これでも良い年頃の女なんですからね。それはちょっと期待してたっていうか、なんて言うか……」

「小紋さんは、本当に彼のことが好きなんですね。マリダ様もいつもその事をお気に掛けてらっしゃいましたわ」

 クリスティーナがそう言うと、小紋がまた目を丸くして、

「マリダが? ホントに?」

 と言って、

「羽間さんて、やっぱり僕なんかよりマリダの事が好きだったみたい。だって、いっつもマリダにデレデレしちゃったりなんかしてるし。それなのにマリダったら、そんな風に思っててくれたんだ。ホントにもう、何だか嬉しいんだか嬉しくないんだか」

 クリスティーナは、そんな小紋のいじらしい姿に少しだけ嫉妬の情が生まれた。

 クリスティーナは思い出す。女王になりたての頃のマリダが、その重圧や寂しさから密かにクリスティーナ相手に胸のうちを語ったことを。


 

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