青い世界の赤い㉓

 

 その時である。縮み込んだクハドの背中から途轍もない殺気が駆け巡った。

「うっ……!!」

 クハドは慌ててチャクラムを取り出すと、振り返りざまにそれを叩きつけようとする。だがしかし、

「おいっ! 何をボーっとしているクハド!? 俺だ! デュバラだ! しっかりしろ!!」

「あっ!! デュ、デュバラ……デュバラさんなのか!?」

 その殺気を発する人物とはデュバラ・デフー。彼と同じ黒いベールを頭から被る暗殺者の一人である。

 彼は、クハドが属する精鋭部隊の一員であり、クハドとは一番年が近い。それだけに、クハドの面倒を何かと一任されている。

「なんなんだ? 何を一人で焦っているんだ、クハド? たかが小鼠一匹葬るのに、何なんだそのザマは!? 」

「は、はあ……、申し訳ありません、デュバラさん。しかし……」

「しかしもへったくれもあるか! いいか、クハド?  俺たちの任務で一番大事なのは、何事にも動じない平常心だ。いくらお前が〝金目、金耳〟の持ち主だからと言って、その不文律からは絶対に逃れることは出来ないんだ」

「は、はい、申し訳ありません。デュバラさん……」

「分かればいい、分かってくれたのならな。……そうだ、分かってくれたのなら、その振り上げたチャクラムを一旦懐にしまってくれないか? もし、こんなところが他の者に知られでもしたら、お前をやっかむ連中をことさら喜ばすだけだ」

「あ……、す、すいません、デュバラさん……」

 このデュバラ・デフーという男も、先だっての羽間正太郎暗殺襲撃の場に居た一人だ。

 彼ら精鋭部隊の若手組は、あの一件以来、黄金の円月輪の組織の中でも非常に辛い立場に立たされていた。

 元々、デュバラ・デフーという男も、若くしてその才能を買われアフワン・セネグトル付きの精鋭部隊に抜擢された経緯を持つ。

 そんな彼らが、古参の暗殺者を差し置いて生き残って帰って来たとあらば、立場上のやっかみも一入ひとしおである。

「なあに、いいさ。これが俺であって、心臓に毛が生えただけが自慢の爺様たちが相手でなくて良かった。それよりもここは、一度落ち着いて策を練ろうではないか。なあ、クハド・レミイール」


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