黒い夏の24ページ


 早雲の口調は、初めはどこか弾むようであったが、次第にはにかんで言葉尻が聞き取れにくくなった。そして全てを言い終えると、彼女はしばらく黙り込んでしまった。

「あ、ありがとな……早雲」

 しおらし過ぎる早雲の態度に、勇斗は返す言葉が見つからない。今の早雲は、あまりにも可愛らし過ぎる。胸が締め付けられるほどに。

 以前の話になるが、どこかでセシルから耳にしたことがある。男は、弱肉強食というゲームの中で自分を見出そうとする子供染みた生き物だが、女は、とにかく優秀な子孫の遺伝子を残そうと、壮絶な戦いに励む、より現実的な生き物であるのだそうだ。だから、あのミシェル・ランドンの起こした副隊長交代劇も納得できる話なのだ、と言っていた。

 どうやら早雲も、その御多分に漏れず〝人間の女性〟としてのさがを得てしまったのだろう。何しろ、機械の体から人間の体へと移行された途端にこの有様である。このように男心を鷲掴みにする発言を平気で語りかけて来るのだから、そのセシルから聞いた話もまんざら間違いではない。

 勇斗が、事を思い出しながら納得しかけた時、

「な、なんだ!?」

 突然、鍾乳洞の暗闇の中に、その身が揺らぐほどの地響きが起こった。早雲も、きゃっ、と驚きの声を上げ、勇斗に身を託しつつ寄り添って来た。

 すると、二人の眼前から一筋の白い光が差し込んで来た。どうやらこの振動は、重たい石で出来た石扉が動いたときのもののようだ。その重たそうな扉は、ゆっくりと左右に開かれゆく。扉が開かれてゆくとともに、辺りは白い光で満たされてゆき、徐々に物体の正体がおぼろげに浮かんできたのであった。

 勇斗も早雲も、眩しそうに眉をひそめながら、恐る恐るその物体を凝視する。すると、

「あっ、あれは……!?」

「そ、そんな……!?」

 二人はそろって驚嘆の声を上げた。その目の前のシルエットに見覚えがあるからだ。

「じゅ、17号……方天戟ほうてんげき17号じゃないか……!?」

「わ、わたしの、わたしの体……!!」

 


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