黒い夏の23ページ
勇斗は更なる不安を抱えてしまった。自らの力量不足に輪をかけて、唯一頼りにしていた早雲までがこの状態だ。
早雲は、知能や計算や行動指標に秀でているだけでなく、フェイズウォーカー方天戟17号の中枢としても満ち足りた存在だったのだ。それがこの有様では、まるで意味合いが違ってくる。
「なあ、早雲。今のお前に、十二時間後の俺たちの行動予測が出来るか?」
それは今の早雲を試すのに、かなりシンプルな質問である。人間に変えられる前の早雲であれば、条件にもよるが、実績にして75%の確率で指標を出せる。なにせ、それが戦闘マシン専用の人工知能としての役目なのだから。しかし、
「あ……あの、ユートさん。ごめんなさい。いくら考えても答えが出せません。行動予測というか、ちょっとした憶測なら言えるんですけど……」
早雲はそう返してきた。表情を
勇斗の思った通りだった。詳細こそは解からないが、早雲は人間的な感覚や感情は増している。だが、肝心の戦闘マシンとしての機能を
(こうなれば後戻りは出来ない。早雲を巻き込んじゃったのは、俺の我がままのせいだ。何が何でも俺が早雲を守ってやらなくちゃならないんだ……)
勇斗は決心した。精神的に頼りにしていたフェイズウォーカー方天戟、そしてそのユニットである人工知能早雲はもうここには存在しない。現実ここにいるのは、縄のようなもので縛られたままのか弱き女の子なのである。
「ユートさん、本当にごめんなさい……。わたし、こんなに人間という生き物の姿が、これほどまでに窮屈で不便なものだとは一向に理解出来ていませんでした。まだ、17号に顕在化していたときに簡単に出来ていたことも、人間の姿になると、その十分の一の力も発揮できない……」
「いいよ、お前が謝るなよ早雲。お前を強引に軍の格納庫から連れ出したのは俺だからな。責任は全て俺にある。謝るのなら俺の方だ。こんな目に遭わせちゃってごめんな、早雲……」
「……そんなことはありません。実を言うと、セシル曹長の一件でユートさんが軍部に拘束されたと知らされた時から、こんなことになるんじゃないかと予測はしていました。……いいえ、ホントのことを言うと、予測はハズレたんです」
「外れた? どうして?」
「怒らないで聞いてくださいね。……実際にわたしの立てた予測は、ユートさんが観察処分に移行された後でも、こんな風に事を荒立てるようなことはしないと考えていたんです。多分、他の軍関係の人工知能たちだって九分九厘九毛そういう答えを出していた筈です。だから、軍関係者はあなたを殆どノーマークにしていた。わたしたちのような、人間の何たるかをすべて把握出来ていない人工知能が出した答えを鵜呑みにしてね。……だけど、ユートさんはその1000分の一の確率の薄い方を、まるで当たり前のように選択したんです。そして、わたしという存在を真っ先に頼りにしてくれたんです。わたしは、ユートさんが格納庫でわたしを見つけ出してくれた時、本当に嬉しかったんですよ」
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