夏の黒い⑨ページ

「そうじゃ。要らない物を拾ったのじゃ」

 アルベルト博士の言い様は、さもそれが昔からのならわしであるかのような言い様である。

 だが、勇斗には博士の言っていることがさっぱり理解できない。

「え、あ、あの……、お爺さん。いや、博士。要らない物とか拾った物とかって言ってるけど、何なんだよそれ。俺には全然分かんないんだけど……」

「あ、ああ、そうなのか。なら教えて進ぜよう。この体の殆どは、ここいらにある寄留地から出た廃棄物じゃて」

「は? それ、どういうこと?」

「だから、見たまんまじゃ。この体の殆どは、各寄留地から廃棄された物を選りすぐって、それを入れ替えたのじゃ。ほら、ヒューマンチューニング手術を受けた後に切り落とされた手とか足とか、そのほかの細かい部位とかあるじゃろ。それを儂が見繕って組み合わせたのがこの体なのじゃ」

「な、なんだってー!?」

 勇斗は驚きのあまり、思わずハッチの部分から転げ落ちそうになった。目の前にいる博士は、正にとんでもない男だった。とにかく言っていることが尋常ではない。頭がおかしいとしか言いようがない。どう考えても気が違えてしまっている。まともな人間の発想ではない。

 いくらヒューマンチューニング手術で余った体の部分が勿体ないからって、そんな物を再利用するという発想自体がとんでもなくイカれている。さすがにこれでは、学会や政府から除外されてしまうのも止むを得ない。勇斗は心の中で、思いのたけの言葉を並べ立てた。

 よく博士の体を観察すると、体の至るところに継ぎはぎのような部分が見受けられる。その継ぎはぎの部分は、あまり目立つようではないにしろ、金属のジョイントのような部品が覗いている。

(とんでもない人だ……)

 勇斗は今にもこの場所から立ち去りたい気分だった。

 若い勇斗でも、この森の辺りの怪奇な噂話を何度も耳にしたことがある。何となくだが、その怪奇話の発端が、この博士にあるのではないかという憶測さえ思い浮かんだ。

 そんな唖然とした勇斗の顔色も窺わず、アルベルト博士は嬉しそうに話し出した。

「儂はな。地球にいる頃からこの技術を学会に発表しておったのじゃが、誰にも認められなんだ。第一、技術があっても、要らない生身の体などなまなかに手に入るものではないもんじゃからのう。しかし、世の中というものは因果なものじゃ。儂の作った技術が敬遠されたのと同時に、何と生身の肉体がどんどん廃棄されてゆくではないか。かのヒューマンチューニング手術によって喃……」




 

 

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