夏の黒い⑧ページ


 勇斗は、何も考えずにハッチの開閉スイッチに手をやった。モニター横にある人工知能の感情を表すフェイスウィンドウに目を向けたが、どうやら早雲はまだ気を失っているらしい。

 彼はそんなことを物ともせず、老博士の話を聞いてあげたいという一心で背中の扉を開けてしまった。するとそこには、若い勇斗よりも体格の良い男が、方天戟17号の頭にしがみついていた。

「ア、アンタが……アルフレッド博士……なんだよね?」

 勇斗は思わず言葉に迷った。手にした小型サーチライトの光の先にいたのが、どう何回見直しても想像していた老人の姿ではなく、筋骨逞しい青年だったからだ。

 勇斗は思わず、

(また謀られちまった……)

 と、心の中で悔やんだ。不幸な境遇に苛まれ過ぎるのも、こういった自分の迂闊な部分が要因であると、自らを思いっきり責め立てた。

 だが、目の前の老人――いや、体格の良い青年は、サーチライトの光をかなり眩しそうに手で遮りながら何もせず、ただだんまりとこちら側を見ているだけである。

「ねえ……、アルフレッド博士……で、いいんだよね? 黙ってちゃ分からないよ。何か言ってくれないと……」

 勇斗は、もう破れかぶれで言葉を投げつけるように言った。こうなったら強気で行くしかない。自らの失敗をどんなに悔やんでも、時間は前には戻せないのだから。

 すると、少し間があって、

「い、いやあ。すまん、すまんのう。光を見るのは、かなり久しぶりじゃて。余りにも久しぶり過ぎて、ついぞ目が反応しきれなんだ……」

 目の前の男はそう言った。しゃがれたこの声、この喋り方からすると、どうやらこの筋骨逞しい青年が、アルベルト・ゲオルグ博士で間違いないのかもしれない。

「で、でも……、でもさ。博士? アンタ何でそんなナリをしているんだ?」

 これも率直に聞いた。勇斗は若いだけに、まどろっこしい遠回りな言葉を知らない。それだけに、全てが直球だった。

 そんな勇斗の質問に、

「ああ、この姿かえ? この姿はじゃな。拾いものじゃよ」

「拾いもの?」



 

 

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