夏の黒い⑩ページ
勇斗は、自らの表情が段々蒼ざめてゆくのが分かった。この人は常人の感覚を持っていない。何か別の宇宙から飛来してきた人なのではないかという疑いさえ脳裏を過ぎる。
それでも老博士は言葉を止めない。
「皆、親から授かった体をぞんざいに扱い過ぎるのじゃ。そうは思わんか? そういう意味では先の戦争で暴れまわった連中の考え方は悪くなかった。じゃがな、結局のところ、野蛮な肉弾戦で事を解決しようとしている様では、儂からすれば同じ穴のムジナもいいところじゃて。反乱軍の輩どもも肉体をぞんざいに扱っているという意味ではヴェルデの新政府軍と何も変わらんかったから
老博士は、いきなり先の戦争談義になっていた。長い人生を経てきた人というのは、大抵こうであるとうことを勇斗は知っている。
勇斗にも立派な祖父がいた。祖母もいた。その祖父たちもまた、こういった回想を飛躍しつつ語る癖があったから知っている。
だが、この人には何か別の意味で問題がある。それがどういったもので、どういう部分なのか具体的には解からない。とは言えど、どこか人間としての常識が抜けてしまっている事だけは分かる。
「あ、あの……、アルフレッド博士……。ちょっと質問いいかな? 博士は、他の人が自分の肉体を捨ててしまうことを嘆いているようだけど、博士自身の肉体はどこにいったの?」
この質問も率直だった。勇斗自身、目の前の博士と言葉を交わすだけでも気が引けるのだが、どうしてもそこだけは腑に落ちないのだ。
すると、アルフレッド博士はいきなり表情を曇らせてこう言った。
「何じゃ。お主は、この儂が言うにかこつけて、自分の肉体を粗末に扱っているとでも言いたいのかえ?」
「い、いや……、そ、そういうわけじゃないけれど……」
「なら何じゃ。何を言いたいのじゃ!?」
どうにもこうにも返答に困りながらも、勇斗は何か良い言葉が見つからないか考えた。そして、思いついた言葉が、
「い、いやあ……、そんなに凄い技術なら、俺ももっと博士の功績を見て見たいなあ、なんて思ってたりしてたものだから……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます