夏の黒い⑥ページ


 そして黒い人影は、おもむろに方天戟17号の機体によじ登って来た。機体全高四メートル程もある高さも物ともせず、大きな体を器用に使い蜘蛛が壁を這うようによじ登ってくるのだ。

 勇斗は思わず奇声を上げてしまった。正体不明の物体が、自分の体の一部とも言える機体に取り憑く恐怖は、〝あの一件〟以来勇斗に格別の恐怖を与えてしまっている。無論、早雲も同様に、方天戟17号の全身をピキピキと硬直させてしまっている。

 黒い人影は、方天戟17号の顔の部分に完全に取り憑くと、メインカメラが付いている目の部分をぬっと覗き込んで来た。その瞬間、コックピット内のモニターには、黒い人影のギョロリとした不気味な目だけが強烈に映し出されたのだ。

 勇斗はもう失神寸前だった。どうにも声が裏返って奇声すらも出ない。鼓動がバクバクいうどころか、今にも止まりそうな勢いである。無論、早雲はオーバーロードを引き起こし、完全に機能を停止してしまっている。

 そんな二人の動向も構わずに、人影はその怪しい腕でコックピットのハッチを力尽くでこじ開けようとしてくる。

「あひっ……、やめて! 開けないで! 来ないでくれえ!」

 やっとの思いで声に出せたのが、そんな情けない言葉の連続である。勇斗は涙も鼻水も所構わず飛散させ、ジタバタとコックピット内を暴れまわる。

 そんな時、

「開けてくれ……。お願いだから、わしを助けてくれ……」

 と、そんな声が聞こえた。だが、勇斗はまだ恐怖が収まらず、

「いやだよう! 何なんだよう! こっち来んなよう!」

 の一点張りである。

 それでもその声はしつこく諦めずに、

「助けてくれ……。儂は怪しい者ではない……、アルベルト・ゲオルグという研究者じゃ……。お願いだから儂の話を聞いてくれ……」

 と、何度も何度も話しかけてきた。

「う、嘘言うな! こんな場所にな人間なんかいるはずないじゃないか!? 俺たちを騙そうったって、そうはいかないぞ!」

「嘘ではない……。儂はまともな人間じゃ。ただ、故あってこの場所に身を隠すために逃げてきたのじゃが、困ったことに儂の子飼いのペットが逃げてしまったのじゃ……」

「子飼いのペット?」



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