夏の黒い⑤ページ
「ちょっとこれ、何なんだよ……。早雲、お前、人工知能なんだから、こういうの大丈夫だろ?」
勇斗は、思わず声をひきつらせた。そんな彼に、
「イ、イエ……、ワタシもどちらかと言うと、こういうのが苦手ナノデスガ……」
早雲も覚束ない言い様で答える。
「なんでだよ!! こんな時ばっかり人間ぽくなりやがって!!」
「シカタナイデショウ!! 一応、人間の恐怖についてのデータがワタシにも埋め込まれているんデス!」
二人が情けない言い合いをしているその間に、黒い人影はどうやら方天戟17号の機体に気付いたようだった。十数メートルも離れた真っ暗闇の場所から、ふいにこちら側に顔を向けたのが確認できた。
「お、おい、早雲。今なんか、あいつ、こっち見たぞ……」
「エ、エエ……。グリンって、間違いなく首だけがこっちに捻じれマシタネ……」
「ということは……やっぱ、気づかれちゃったよな」
「どうやら、ソノヨウデスね……」
早雲が言い終えた時、一瞬、精霊が通り過ぎたような間があった。
双方とも恐怖のあまり、どうにも気の利いた二の句が思い浮かんでこない。そこで勇斗は勇気を振り絞って、
「お前、ちょっと一人で様子見て来てくれない? 俺は、ここで目え塞いで待ってるからさ……」
と、思いのたけを述べてみた。すると早雲も即答で、
「イ、イヤデスヨ!! 何でワタシばかりが行かなくちゃならないのデスカ!!」
「だって、そりゃあお前は人工知能だし……」
「人工知能ダカラって、ソレハナイデショウ!? 世界人工知能協会に訴えマスヨ!!」
「いいよ、訴えなよ! そ、それで済むんなら、どうぞご勝手に!」
「じゃ、じゃあ訴えマスモンネ!! ゼッタイニ、ゼッタイニ訴えマスモンネ!!」
「いつ訴えるって言うんだよ! 何時何分何十何秒だよ!? 言って見ろよ!!」
「モ、モウ!! ユートさんなんか、金輪際ピンチになったって、ゼッタイニタスケテアゲマセンカラネ!!」
「何だよ、この唐変木機械頭め! お前の母ちゃん出べそ―!!」
「バカじゃないデスカ!? 人工知能に出べそなんかアリマセンヨー!!」
勇斗も早雲も生産性のない言葉でのなじり合いが止まらなかった。この異常かつ前代未聞のシチュエーションに、尋常ではない心理状態にあったからだ。
だが、双方の意に反して黒い人影は完全にこちら側に歩いてくる。のっしのっし、のっしのっしと。
暗視モードのモニターにもかかわらず、真っ暗闇の鍾乳洞だけにその人影の表情が窺えない。それゆえに、余計にその人影の不気味さが際立ってくる。
「お、おい! 本当に来たよ……、おい、こっち来ちゃったよ。どうすんだよ!? 早雲!?」
「キ、キチャッタって言われまシテモ……!!」
増々焦りまくる二人である。が、ここで機銃を撃つわけにはいかない。機銃を撃てば、追手の部隊に居所を知らせてしまう可能性がある。
二人は、只々モニターに映る人影を目を見開いて凝視するしかなかった。勇斗に至っては、余りにもビビり過ぎてシートに抱きついて震えまくっている。早雲も余りの恐怖のせいなのか、モニターにバグのような乱れを生じさせてしまっている。
人影は一旦立ち止まった。こちら側の様子を窺っているのだ。そしてまたこちら側に興味を示したらしく、のっしのっしと足取りも素早く近づいてくる。豪快にも頑強そうな黒い巨体を揺らして。
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