野望の118
正太郎の号令がかけられたと同時に、二人はそれぞれの役目に徹した。
烈太郎は、何と言ってもレールキャノンを発射させるまでの工程を完遂しなければならない。それにはレールキャノンの砲身をせり出させるだけでなく、エネルギー残量、角度の計算、それによって撃ち落せるヴェロンの総数の予測と言った全てのことを瞬時にやり遂げねばならない。この順序立てをどれだけ短縮出来るかが、存命率の大きな要因につながって来るのだ。
そして正太郎の役目は、とにかくヴェロンを烈風七型の機体に寄せ付けない事だった。これで少しでも機体にダメージを与えられたりすれば、レールキャノンを撃つとか撃たないとかの話ではなくなってしまう。少なくとも、砲身、もしくは片口の砲台の部分に甚大なダメージを受けてしまうことだけは避けたい。それが出来なければ、どんなに準備が完遂してもレールキャノンは発射不可能になる。高エネルギー、さらに超強力な兵器なだけに、その扱いは難しいのである。
「オラオラオラァァァァァッ!!」
正太郎は、真正面から怒涛の如く特攻をかけて来るヴェロンを死ぬ気で叩き落した。さすがの彼でも微塵ほどの余裕もない。こんな時は、目に入る物全てを切って切ってぶった切りまくるしかない。彼は息もするのを忘れて二本のソードを縦横無尽に振り払った。出力は最早目一杯まで上げている。これ以上上げてしまえば、機体全体がオーバーロードし兼ねない。なぜならこれ以上出力を上げれば、レールキャノンの準備に必ず差し支えるからである。彼は、このままの状態を維持しながらヴェロンを一刀両断のもとに薙ぎ払うしか手立てが無いのだ。
ヴェロンは、振り払われた二本のソードによって、鮮血ならぬ濃い緑色をした鮮やかな体液をそこら中に撒き散らして行く。次々と弾け飛び重なるヴェロンの骸に、烈風七型の機体も次第に濃い緑色に染まって行った。
「尋常ではなさすぎるわ。あの人も、そしてあの機体も……」
エナ・リックバルトは、囚われの身のままその一部始終を見守っていた。
「そのようですナ。あの男のことはさて置き、あの烈風七型という機体は瞠目せざるを得まセン。あれは本当に人工知能によるものなのデスカ? ショウタロウ・ハザマはネイチャーだと言うのに、あれ程までに息の合った連携など……。到底補助脳が無ければ完成されぬコト」
金髪の兵士の体に寄生したグリゴリは、口惜しそうに言葉を吐く。
「あら、それは焼きもちかしら? それとも嫉妬? 異種間同士で三次元ネットワーク無しにあれをやってのける彼らは、あなたの想像の及ぶところではないということね……」
言われてグリゴリは、彼女をギッと睨んだ。
この五年間、あらゆる人間に寄生して得たどんな情報よりも、今目の前にしている状況は、初めて彼が目の当たりにすることだった。グリゴリの辞書に新たな概念が刻まれた瞬間である。
「経験は馬鹿をも賢くするってことわざ、本当のようね。でも、それに気づいたあなたも大したものだけれど」
「黙らっしゃい! エナ・リックバルト!! アナタが今、どういう立場でそんな物の言い様が出来ると思っているのデスカ!!」
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