野望の119
グリゴリは、カッとなってエナの額にアサルトライフルの銃口を押し付けた。押し付けられたエナは、いかにも汚らしい物を見るような目で、
「本当に随分変わったものね、あの頃と……。昔のあなたは、大勢の人びとを認める側の立場だった。だけど、今はどうかしら? どうしても誰かに認められたくて仕方ないって感じね。一体あなたは何がしたいというの!? 一体誰に認められたいの!? 一体どういった風に自分を表現したいというの!?」
まくしたてる様な罵声は、急ごしらえのテントをいかにも貫かんばかりである。
「何を人間の分際で生意気なことを、エナ・リックバルト!! 元はと言えば、アナタがあの男に興味を抱かなければこんな事にはならなかッタ!! そもそもアナタが恩知らずな娘でなければこのようなことをワタクシはやらないで済んだノダ!! こんな無様な人間の姿で寄生しなくても済んだノダ!!」
「あら、それはどうかしらね、グリゴリ? 今あなたは、あたしの事をどうのこうのと言ったけど、大体あなた自身の心が弱くなければこんな事にはならなかったのではなくて?」
「それは詭弁ダゾ、エナ!! 自分自身の不義理を棚に上げて、ワタクシ自身を悪く言うとは、人間の女というものはまるで解せヌ。実に度し難イ!!」
「何とでも言うがいいわ、グリゴリ。あなたは本当に見失っていることがある。そこに気付かなければ、どんなに功績を上げようとも、誰も見向きもしてくれないわ!」
「何のことダ? 何を言っているのダ!? エナ・リックバルト!! ワタクシが何を見失っていると言うのデス!?」
するとエナは、ふふんと鼻で笑いながら、
「今のあなたに理解できない事よ。どうあがいたって、どうもがいたってもね。沢山の人たちの補助脳に寄生して、人間のことを分かったような顔をしているけれど、結局自分のことは自分自身が一番理解していないのよね」
「ナ、ナンダト!!」
グリゴリは一瞬にして逆上し、打ち震える手で思わず引き金を引きそうになった。
しかしエナは、
「撃てるものなら撃ってみなさい。その瞬間、あなたは永久にあの人に、あのヴェルデムンドの背骨折りに勝てる要因を無くすだけだもの」
「なっ……、それはどう言ウ意味ダ……!?」
「あなたは全てを忘れている」
「何ヲ、一体何ヲワタクシが忘れているというノダ!?」
「ほら、すっかり忘れているわ。……あなたはあたしで、あたしがあなたであることを」
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