野望の104


 烈太郎は〝インターフェーサー〟という意味をこんな感じでイメージしていた。

 つまり、えんぴつがあったら紙。包丁があったらまな板。野球のボールがあったらバット。警察があったら泥棒。鴨が飛んでいたらネギ。そういったあらゆる何らかの物が存在した場合、それに必要不可欠な物に全力で化ける性質を有しているのが羽間正太郎という男の役割なのだということだ。

(確かに兄貴はそう言った意味での才能の塊なんだ。天才なんだ。昔っから兄貴が口癖のように言ってたっけ。俺は単にやれるからやっているだけだって……。かと言って、オイラが真似しようったって簡単に出来ることじゃないもん……)

 しかし羽間正太郎にならそれが出来る。烈太郎は、当然そんな彼の姿を飽きるぐらい目の当たりにしてきた。

 もし、人工知能グリゴリが、エナ・リックバルトの助言によって正太郎のそういった才能に対して挑んで来たとしたのなら、このような状況にも容易に頷ける。

(オイラのような機械の頭でも何となく解って来た気がするよ、兄貴。きっとグリゴリのおっちゃんは、エナちゃんの言っていた兄貴特有の役割りに気付いて勝負を仕掛けてきたんだね。それがグリゴリのおっちゃんにとっての最高の自己主張にもなるし、最大の承認欲求の吐け口にもなるもんね……)

 烈太郎はその時、改めて人工知能グリゴリが心底人間という生き物に憧れていたことを実感せざるを得なかった。もし彼が、人類よりも上の存在であろうとし続けていたのなら、こんな低俗で野蛮に満ちた自己主張をする必要もなかったであろう。しかし、彼はそれをやった。つまり、彼はとうの昔に人間の仲間入りを果たしていたのだ。



「ねえ、グリゴリ? やっぱり、ショウタロウ・ハザマにはダミーのデータ情報は効かなかったようね」

 エナ・リックバルトは、森の様子が一望できる小高い丘に布陣を貼って彼らの動向を伺っていた。

「当たり前です、エナ。ワタクシが追い求めている男が、その程度のブラフに騙されるようならワタクシ自身このような運命には足を踏み入れたりしていまセン」

 簡易スツールに腰掛けたエナの背後から一人の男がそれに答えた。その男は、ボサボサに伸びた金髪に無精髭を生やしている。そして、クチャクチャとノイマンビーフの干し肉をかぶりつきながら、大事そうにアサルトライフルを抱え込んでいる。

「あら、そう言う割に、お目覚めはごゆっくりだったんじゃない?」

「ソレハ随分意地悪な言いようデスナ、エナ。仕方がないでショウ。五年以上もの間、ワタクシは意識プログラムも記憶データも分散されすぎて自己というものを確立できていなかったのですカラ……」





 

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