野望の103

 

 彼らは、ようやく身を隠せる岩場へと辿り着いた。ここなら四方八方の攻撃から身を守ることが出来る。体勢を立て直すには持って来いの場所である。

「じゃあ、今回のこれは、エナちゃんとグリゴリのおっちゃんの仕業だと言うの?」

「うん、まあ……そんな単純なこっちゃねえと俺は睨んでいるんだがな。しかしな、烈……」

「なんだい、兄貴?」

「なんかこう、俺には分かるんだよ。理屈じゃねえ何かが、腹の奥底から震え立って来るのがな。この俺をどこぞから呼び込んでいる何かがな!!」

 正太郎は両掌をジッと見つめ小刻みに震えていた。その震えの原因は、どうやら恐怖によるものではない。彼特有の相手方の期待に沿えようとする本能が底力を呼び覚ましてしまうようだ。

「もしかして兄貴? それが、グリゴリのおっちゃんのせいだとでもいうの?」

 烈太郎は怪訝な声色で聞いた。確かに正太郎の今までの推測は当たっている可能性が高い。だが、どれもこれも根拠のない憶測に過ぎず、まして彼を熱くさせているものの正体など、どこにも現れていない。

「ああ、それは俺も不思議な感じなんだ。もし、この俺の本能を呼び覚ます存在なら、相手方は人間である可能性が高い。だが、グリゴリ……奴はれっきとした人工知能であり、そして意識プログラムそのものだ。なのに、どういうわけかジンジンと強い意志の様なものがこの俺の体じゅうに伝わってくるのが分かる。この俺ととことんやり合いてえっていう本能が呼び起されちまう……!!」

 正太郎の口角は、また上がりっぱなしになった。瞳は爛々と輝きを増す一方で、吐く息はどんどん荒くなっている。それはまるで獲物を見つけた獰猛で勇敢な野獣の様な佇まいである。

 烈太郎は、その様相を目の当たりにして、

(これが、エナちゃんの言っていた〝インターフェーサー〟の本当の意味なんだね……)

 と深く感心した。それは正太郎と長くを共にしてきた烈太郎だからこそ、そう感じるのである。

 羽間正太郎という男と出会ってから、もう早くも五年以上の歳月が経っている。その間、彼は羽間正太郎という男のいくつもの顔、いくつもの姿を目の当たりにしてきた。

 その度に思う。

(正太郎の兄貴は、期待を寄せる相手が変わるたびに色んなタイプの人に変化しちゃうんだ。それもみんなかなり全力な感じで……)


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