野望の78
もし思い通りに正太郎の意思が伝わったのなら、もう連絡用の弾頭がこちら側に着弾しても良い頃合いだった。連絡用の弾頭が着弾すれば、正太郎の腕時計型ナビゲーションツールに信号が送られる仕掛けになっている。だが未だにそれは来ない。
「クソッタレ、肩透かしか!!」
正太郎がそう言って拳を床に叩きつけたとき、
「どうやらその様デスネ。ヴェルデムンドの背骨折り」
と、背後から男のかすれ声が聞こえた。
「わっ!!」
と、正太郎はいきなり耳元に声を掛けられたことにより驚いてその場から飛び跳ねる。
「ようやく見つけましたヨ、ショウタロウ・ハザマ。探すのに手間取りマシタ」
「な、何だ!? 誰だテメェは!?」
彼が一回転しながら体勢を立て直すと、なんとあろうことか、そこには燕尾服を身に纏った白髪の老紳士の姿があった。
「テ、テメェ、いつの間に!?」
正太郎は、今いる場所が袋小路であったが故に油断していた。当然ここなら一方向に警戒心を向けていれば身の安全を図れると考えていた。だが、どうやら敵はその範疇を超えていたようだ。
「うっふっふ、ショウタロウ・ハザマ。その共鳴スピーカーはこの建物の中デハ通用シナイ。いくら共鳴スピーカーと言えドモ、外部に音が漏れない細工がしてあるのは当然の事デス。何しろ核融合炉施設ですからネ。些細な音ですら影響を受けてしまうこの施設の中で、その考えはありまセンナ。」
老紳士は、あの時より一段と余裕の態度で構えていた。さらに、種明かしとばかりにご丁寧な説明付きで。
「くっ……そういうことか。どうやらこの俺は、どっかの国の月面着陸計画みてえに多大なる無駄骨を折っちまったというわけか」
「その通りデス、間抜けな背骨折り。キサマは確かに優秀な男なのかもしれナイ。ダガシカシ、それはキサマが人間という生き物の中の話であってのコト。どんぐりとどんぐりの世界の話であってのコト。モハヤ、ペルゼデールの始祖に触れたワタシの敵ではないノデス」
「ペルゼデール? シソ? 何言ってやがる、このイカレ
正太郎は言いつつ、拾った装備品入れからデュアルスティックを取り出した。これは格闘戦に使用する振動式の特殊警棒である。この警棒は対象にその先端を当てた際に、激しい振動によって相手に凄まじいダメージを与えることが出来る。
だが、それは対象が実体ならの話だ。この老紳士はあくまでホログラムに過ぎない。
正太郎がそう思った瞬間、
「うおっ……!!」
老紳士は鞭を振り出してきた。その鞭の先端がしなりながら伸びてきたとき、正太郎の頬に真空の刃がかすめてゆくような痛みが走った。
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