野望の77

 彼の脳裏に共鳴スピーカ―のことが過ぎったのは、反乱軍に今の状況を伝える手段が欲しかったからである。この状況のことさえ伝われば、一斉総攻撃の命令を遅らせることが出来るかもしれない。あわよくば作戦を取り止めることが出来るかもしれない。

 その為には、ゲッスンの谷を囲うトーチカで待機している烈風七型――烈太郎のいる場所にまで声が届けばよい。最近手に入れたばかりの相方だが、そのぐらいの機転が利くことを期待してのことだ。

 正太郎は、三次元ネットが張り巡らされているこの谷では無線や電話回線は盗聴され易いから使わなかった。がしかし、

「もうこうなれば仕方ねえ。共鳴スピーカーで話せばこっちの意図が敵にまる聞こえになっちまうが、もう四の五の言っていられねえ。ここは一丁アイツに俺の美声を聞かせてやろうじゃないの!」

 共鳴スピーカーは、すべての物質を音声とともに振るわせて直接相手に言葉を伝える。それは現代の骨伝導技術の発展形で、フェイズウォーカーである烈太郎であってもその振動を音声として認識するレセプターを有している。

 正太郎は共鳴スピーカーの電源を入れると、一度言葉を頭の中で選んでから声を発した。

「おい! 聞こえるか烈! 俺だ、お前の相棒の羽間正太郎だ! こっちは正月に食べる餅代も今一つ稼げねえ状態だ。だからテメェは自分一人で寂しく田舎に帰れ! 何ならお年玉はテメェの爺ちゃんにでもせがむこった。こっちはこっちでやることがある。解かったか!? 解かったなら花火で合図しろ!」

 この期に及んでとち狂ったような言葉の羅列のようだが、彼のこの言葉を訳すとこうなる。

 ――こっちは今一歩のところで作戦が頓挫している。総攻撃はそれまで待つように本部にそう伝えろ。できる事なら総司令のところまで行って攻撃中止を嘆願してもいい。こっちは大丈夫だ。この声が聞こえたのならレールキャノンをこの近くに着弾するように撃って合図しろ――

 である。

 さすがに内容をそのまま、まる聞こえで話すわけにはいかなかった。どんなに切羽詰まっているとは言え、まだ作戦中である。万が一の取りこぼしすらできない状態なのだ。

 正太郎が今いる場所と、烈太郎が待機しているトーチカまでは計算上では15キロメートル。そして、この共鳴スピーカーの最大出力半径が15キロメートルとモニターには表示されている。

「クソッ! 話し出してから30秒も経っちまった。これでレールキャノンの影響が無いとすれば、失敗だったか……」




 

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