野望の56
「やつらの悪い癖だ。人工知能が高貴な人間ぶっちまうたぁな。ホント厄介だ。そのうち機械のくせに、このワインの味がどうたらとか何とか言い出すんじゃねえかと冷や冷やするぜ……」
今までにも、人間を見下したような発言をする人工知能を幾度か見かけたことがある。しかし、そういった人工知能に限って人間のそういった表面的な部分だけを真似したがる。
「こんな奴ァ、どうせならキリギリスの衣装でも纏ってたほうがお似合いってもんだぜ……」
正太郎は、鼻息を荒くしてぼやく。
しかし、ぼやくぐらいの気持ちの余裕はあるのだが、手持ちの銃の残弾はあと3発。追い詰められたこの状況を切り抜けるには、どんなに妄想を膨らましても無理がある。
「さあ、どうするか。ここが運命の別れ道というわけか……」
しかし彼は、こんな時でもまだ諦めたりはしていない。それは単に楽観的に物事を考えているわけではなく、戦略は相手があっての戦略であると知っているからだ。
とは言え、こちら側から打つ手は無い。どんなに彼が有能な人間であろうとも、自分の力だけでこの状況を切り抜けられる術など持ってない。
しかし、まだ彼にはこの状況を打破する道筋が残されていることに気付いている。それだけに、彼はそのタイミングを待っている。
それは――
「聞くのだ、ショウタロウ・ハザマ! こちら側に出て来てそこからこれを見給え! これを見れば貴様の気持ちも変わるはずだ!!」
「ほら、おいでなすった」
正太郎は、相手からのこの言葉を待っていた。向こう側からの第二の要求である。
窮地に追い込まれた正太郎側からすれば、どう考えても八方塞がりである。にもかかわらず、わざわざ相手側から手を打ってくれることを予測していたのだ。
「それだけ奴らも焦っているということさ。俺の本当の狙いが分からなくってな……」
人は、不安であればあるほど余計な手出しをしたがる。それは、この時代の人工知能も同様であり、まして人間の真似をしたがる人工知能ならば、そういった思考経路になってしまうのも何ら不思議なことではない。
「ショウタロウ・ハザマ! これを見給え! ここにいるこの女の姿を!!」
ホログラムの老紳士は、いかにも勝ち誇った物の言い様であった。その老紳士は不敵な笑みを浮かべると、視線を背後に並んでいる武装型アンドロイドへとくれた。
するとそこには、後ろ手に縛られ拘束された金髪の可憐な女性の姿があった。
「ア、アンナ……!! アンナなのか!?」
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