野望の55
「な、なんだ!? これは、共鳴スピーカーなのか!?」
正太郎は歯を食いしばる。
共鳴スピーカーとは、これまでのように何らかの素材で出来た膜を振動させ音を伝えるものではない。これは、アンプから変換された超電導が、直接空気を双方から振るわせて共鳴させることによって辺り一帯に音を拡散する技術の事である。
発信者はそれを使用することにより、半径一キロメートル圏内の全ての者に音声を伝えることが出来る。つまり、その範囲内ならどんなに耳を塞いでいようともこちら側の意思を直接伝えることが出来る代物なのである。
「警告する! 蔵人・ジミー・マーティズ! いや、その人物になりすましている……おそらく中身は反乱軍所属の軍師ショウタロウ・ハザマ!! 貴様は完全に包囲されてイル。これ以上抵抗してもお互い無駄な時間を浪費するダケダ! 悪いようにはしナイ。大人しく私たちのお縄につきなサイ!」
正太郎は、声が発信されていると思われる方向に、壁の隙間からちらりと覗く。すると、場違いにも燕尾服を身にまとった身綺麗な老紳士が、数十体にも及ぶ武装型アンドロイドが立ち並ぶ前で突っ立っていた。その姿は、いかにも余裕のある貫禄ぶった威圧的な態度である。
「何を言っていやがるんだ! アイツはどうやらどっかの機械頭のようだな。言っていることが支離滅裂じゃねえか! 悪いようにはしないと言っちゃあいるが、アイツらに投降した時点でただの機械人形行きじゃねえか。こちとらそんなへっぽこな要求にはいそうですかなんて従えられるものかい!」
正太郎は溜め息を吐くと、小さくそうぼやいた。
彼が機械頭だと言っているのは、勿論、人工知能の事である。あちら側で慇懃無礼な態度で要求を打ち出してくる老紳士が、人工知能が作り出したホログラフであると気づいたからだ。
それが証拠に、そこに立つ老紳士に影が無い。そして、こんな戦場と化した場所でわざわざ燕尾服を身にまといながら一端の交渉に出て来るイカレタ存在など、この世に人工知能以外ありはしない。
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