野望の54

「冗談じゃねえぜ!  コイツら拳銃の弾ぐらいじゃ、全く歯が立たねえ!」

 一方、正太郎はというと、苦戦に次ぐ苦戦で真に焦りを感じていた。

 この時点でのM8000の残弾は3発。それに対して迫り来る武装アンドロイドの数は、ざっと見ても三十体は下らない。

 比較的に射撃に自信がある彼だが、対人鎮圧用アンドロイドSP-099K型戦闘歩兵とやらは、弱点と思われる場所が見当たらない。

 歴代の武装型アンドロイドの弱点は、一応の事彼の頭の中に入っている。それは軍師として、そして兵士としてなら当然のこと。マグロを刺身にしてワサビと醤油を付けて食べるぐらい、彼らには当然の嗜みとして認識済みである。

 しかし、このSP-099K型はよく出来ている。対人用と言うだけあって、その巨体の威圧感が半端ない。人間としてこの世に生まれ出てきたなら、この大きさと無慈悲な鬼か悪魔かを連想させる無機質な体躯を目の当たりにすれば、どう頑張っても無意識に委縮してしまう事は間違いない。

 その上、他のアンドロイドよりも装甲板が厚く作られており、外界からの攻撃に滅法強く出来ている。関節などの継ぎ目の部分などもしっかりとカバーされているので、そこを狙い撃ちしても、一度や二度の命中ぐらいではビクともしないのだ。

 だからと言って、こんな物とまともに肉弾戦をしてみようものなら、たちまち生身の正太郎であれば少なくとも複雑骨折は免れないであろう。

 この機体は、ヴェルデムンド秘密警察専用であるがために、当然の事、胸の辺りからスティルベレット弾を発射してくるわけだが、今までの空中からの攻撃が小雨に感じられるほどSP-099K型の射撃は激しい物だった。

「これじゃまるで、ニードルガンの台風だぜ!」

 正太郎は、所々にあるビルの物陰に身を寄せながら体を隠すが、SP-099K型がスティルベレットを発射するたびに、特殊セメントで出来たビルの壁がネズミに齧られたチーズのようにボロボロと崩れてゆく。

「おいおい! どこが鎮圧用だよ! これじゃ強襲用と何も変わりゃしねえじゃねえか!」

 あまりの破壊力に、さすがの彼も度肝を抜かれる。一体全体、どんな奴がこんな無茶苦茶な設計をするものだろうか。

 それもそのはずである。このSP-099K型は、もともと戦略用兵器として納入されたものを、当局が改修して対人用と銘打っただけの中身は殺戮兵器そのものなのだ。単に命令次第で鎮圧用から強襲用に鞍替えすることなど朝飯前なのである。

 正太郎は逃げた。こんな化け物とまともな装備も持たずやり合ったところで命を落とすだけだ。アンナの動向も大変気になるところだが、奇襲すら思い立たない状況で真正面から向かい合ってもどうしようもない。

「し、仕方ねえ! こうなりゃ、どこかで武器でもかっぱらって、やり合うしかねえのか!?」

 正太郎が、焦りに焦って路地裏に逃げ込もうとした時である。その武装型アンドロイドが迫り来る方向から、どこか紳士めいた謎の声が大音量で聞こえてきた。



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