野望の57

 拘束された女性はアンナ・ヴィジットに間違いなかった。幾分か疲れた表情だが、まだ正気を保っている様子からして仮死処分は免れている様子だ。

「ショウタロウ・ハザマ! 貴様が素直にこちら側に投降しさえすれば、この女の仮死処分は免除してヤロウ。だが、素直にこちら側の要求を受けなければ、即、この女の記憶は部分的に消去され、我々の一回路として取り込むことニナル。ここで貴様に三分間の猶予をやる。その間に投降するか、抵抗するかを決めタマエ!」

 一回路として取り込むということは、それはつまり人工知能の一部として機械化されるということを意味する。それが彼らなりの処刑だと言うのだ。

「まったくアイツらと来たら、美しさとかの概念の欠片もありゃしねえ……」

 アンナ・ヴィジットは、人間の概念からすればどこからどう見ても美しい女性だった。しかし、人工知能からすれば、

『人間の中の美しいという概念はこうだ』

 ということを理解していても、自分が美しいと感じているわけではない。

 それだけに、

「そういう所がいけ好かねえんだよ、アイツらの」

 と、正太郎はつい感じてしまう。

 この後のことになるが、正太郎が烈風七型高速機動試作機――人呼んで烈太郎を譲り受けた時に、人工知能相手にそういったストレスを感じなかったのは、烈太郎という人工知能が正に画期的な試作品であったという証しだと言えよう。

 さて、話は飛んだが、第二の要求を基に向こう側から待ち望んだ手を打ってきてくれたのだが、どうにもこうにも人質を取られてしまっては、これまた八方塞がりである。

 よりにもよって、アンナ・ヴィジットという存在が向こう側の手に渡ってしまっては目的の達成さえままならなくなってしまう。

 正太郎は、この自分の惚れっぽい性格を悔やむとともに、計画の至らなさを戒めた。

 いくらゲッスンの谷の悲惨な状況を打開したくて挑んだ作戦であったとしても、彼女や一般人をも巻き込んで無理難題を仕掛けているようでは軍師失格である。

 とにかく若気の至りも甚だしく、連戦に次ぐ連戦で勝利を重ねて増上慢になっていたことは認めねばなるまい。これは遊びではないのだ。未来とプライドと命を賭けた戦争なのだ。

 

 

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