野望の㊷


 羽間正太郎の潜入を予測していたエナ・リックバルトは、

「彼のような考えをする人が取ろうとする行動は、単純に言えば民衆の操作が目的よ。その方が武力で攻撃するよりも効果的だと知っているからだわ。彼の今までの作戦の立て方を鑑みると、その辺がとても浮き彫りになっている。本当に彼は人間という生き物の性質がよく解かっている。それは善しにつけ悪しにつけね。その為には、単身でこちら側に乗り込んでくる方がやり易いと思っているはずよ。グリゴリ、そう考えると、あなたが言うように彼はとても自信過剰なタイプかもしれないわ。それも飛びっきり傲慢タイプのね」

 もうこれで何度目のインタラクティブコネクトであろうか。人工知能グリゴリとの今回の時の部屋でのやり取りは、連続で12時間を優に超えている。どんなにミックスとなった彼女であろうとも、8歳の童女がやるべきことではない。

 だが、

「エナ、それはどういう理由でそう思いマスカ?」

 人工知能グリゴリも考えが白熱し、彼女を気遣う様子ではなかった。

「そうね。もしあたしが、あたしの予測して考えたショウタロウ・ハザマという男だったとしたら、絶対に心の奥底に柱となっている言葉が見えて来る」

「フムフム、その言葉トハ?」

「この俺にやってやれない事はない! ――そんな感じかしら?」

「ナント!」

「確かに常識的に言えば、そんな増上慢な考え方と揶揄されても仕方がない。でも、他者に対して可能性を見せるという点では、とても良い考え方でもあるわ」

「フム。かつて歴史上に名を連ねた偉人達にもそういう風潮はありまシタナ。しかし、それによって民衆を扇動し、滅びの道に誘おうとした人物も少なくありマセン。ワタクシが考えるに、ショウタロウ・ハザマが前者であることを願うばかりデス」

「そうね。もし彼が後者の考え方をする人物だと仮定したら、少なくともこちら側の被害は尋常の物でなくなってしまうものね」

「ハイ、ソウデスネ。ならば今度はそういった分析を踏まえて、この男が取って来るであろう作戦概要を予測してみましょう」

「うん、そうね。ただそれには、ショウタロウ・ハザマという人物が利用し易いと思われる事象を調べ上げないといけないわね」

「エナ。それはもう調査済みです。この男の経歴から察するに、対象は何らかの新しい物を好む傾向にありマス。それも、多くの人々が扱い難くて気にも掛けたがらない物に対シテ」

「それはどういう?」

「そこまではハッキリと具体的に突き止めてはいまセン。しかし、候補に挙がる物がシバシバ……」

「じゃあ、先ずはその線で一緒に詰めていきましょう」

 エナはとことん本気だった。兎に角、ショウタロウ・ハザマという人物に興味を惹かれていた。

 それは、肉親であるとか恋人であるとか、はたまた師弟関係であるとか、そういった既存の概念で表せるような関係を求めたものではない。

 どこか、生物的な同種類の物に出会いたいという望郷の念に似たような感覚に近い。

 そんな複雑なエナの活き活きとした様を窺って、人工知能グリゴリが面白い筈がない。



 

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