野望の㉓
ゲッスンライト争奪戦は、五年前の戦乱の中でも重要なポジションを占めていた。
環境の激変と、資源調達の困難によって争いの絶えなくなった地球とは違い、資源に富んだヴェルデムンドの世界に於いては、その資源の有効活用技術についての開発に重点が置かれたのだ。
ヴェルデムンドは空輸が出来ず、命懸けの陸路だけが地理的発展の要なのである。それだけに、どれだけ同じ量の燃料を、どれだけ有効かつ長時間利用できるかで存命率が変化してくる。
いくら資源が有り余るほど顕在していようとも、それを有効に活用するにはやはりゲッスンライトは欠かせないのだ。
そして、ゲッスンライトを使用することによって、余分な熱が発生しにくくなることから、設計上の熱放出による悩みも解決される。よって、一度に供給できるパワーも上がることから、より強力なユニットを開発できるというメリットもあったのだ。
第三世代フェイズウォーカーが主力になりつつあったあの時代、ゲッスンの谷はどの地域よりも熱い感心を集めていたわけである。
「そして俺は、ゲッスンの谷へと派遣された。烈、お前を手に入れて間もなくのことだ」
「ああ、覚えているよ、兄貴。あの時はオイラも右も左も分からない状態だったから、何となく緊張してたっけ」
「緊張だと? 機械のお前がか? へへっ、そりゃまあ全くよく出来た人工知能だこと……」
「ホントだってばあ! オイラはそういう風に繊細に出来てるの!」
無論その時の正太郎は、反乱軍の一兵士としてだけでなく、作戦参謀を兼ねた実効部隊の隊長として赴任した。
人員も物資も少ない反乱軍としては、あまりにも毎度のことで気にしている節はなかったが、定石から言えば無謀極まりない指令なだけに、周りの兵士たちに不穏な空気が漂っていたのは事実だった。
だが彼は、そんな困難を目前にして燃えていた。なにせ、相手がなんとあの新進気鋭、難攻不落の女王ノックス・フォリーのアマゾネスだったからだ。
長期化するゲッスンライトの攻防戦に、新政府軍は満を持してエース格の戦略家を配置したのだ。
「兄貴はあの時、どんな気持ちで戦いに臨んでいたの?」
「ふん、俺だっていつも戦闘が怖くねえわけじゃねえ。だがよ、それをやり遂げて振り切ったときの快感の方が断然上なのさ。だから俺は引き受けた。あの難攻不落の壁によ。そんな絶対城壁の城を匂わせるゲッスンの谷を落とさずして何が戦略家だよ。何がヴェルデムンドの背骨折りだよ。俺はそんな意気込みでお前を連れて戦いに臨んだんだ」
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