野望の㉔
ゲッスンの谷は言わば自然が作った城壁だった。言葉を換えれば、意固地な神が作りし要塞だとも言える。
そんな場所からしか産出されない貴重な鉱石ゲッスンライト。その獲得権をまず初めに有したのは、その鉱物を偶然発見した一企業である。
しかし、企業とはいえど、単なる土地開発に携わる一企業でしかなかったことと、地形や肉食植物による障害は大きく、そんなリスクを負ってまで掘り起こすなどしてゲッスンライトを有効活用するには至らなかったのだ。
ましてや、ゲッスンライトを第一寄留エスペランサまで運び込むという作業は、地球から月を往復輸送するのと何ら変わらない膨大な予算とリスクが生じてしまう。そうなれば、いかに未来ある鉱物を産出する作業とは言えど、一企業だけで背負えるプロジェクトにはなり得ない。
そこで乗り出したのが、様々な国の壁を持たないコングロマリットである。彼らは、豊富な資金と政治力を後ろ盾に、その場所自体に巨大な採掘基地とフェイズウォーカーの生産拠点を作ることにより、ゲッスンライトを独占してしまったのだ。
ここまでの経緯から分かる通り、そのコングロマリットの後ろ盾があって擁立されたのが、機械神ダーナフロイズンであり、ヴェルデムンド新政府である。
ヴェルデムンド新政府は、即座にゲッスンライトを有効活用するための研究所を設け、ヒューマンチューニング技術やフェイズウォーカー技術を向上させようとしたのだ。
フェイズウォーカーにしろヒューマンチューニング技術にしろ、ゲッスンライトの有用性は火を見るよりも明らかである。
「俺があのゲッスンの谷に赴任するまで、両軍共々すげえ損害を被ってまで奪い合いを止めなかった。いや、止められなかったんだ」
「どうしてだい、兄貴?」
「そりゃあよ、どっちかが勝っても負けても、ていうか、引いても引かれても世界の流れが偏っちまうって分かっていたからさ。ヴェルデの新政府軍だって俺たちがいた反乱軍だって、その争奪戦によって相手の見方がこじれちまったっていうわけさ。もう、互いに疑心暗鬼になっちまって、本来のゲッスンライトの有用性なんてどこ吹く風の話さ」
「そうだよね。本当なら、ゲッスンライトっていう鉱物は人類にとってとってもいい物なのにね」
「ああそうだ。こういうのを馬鹿と鋏は使いようって言ってな、使う奴が馬鹿だと馬鹿みたいな結果が起こるって言うような罵り合いになっちまったのさ。もうあの時点で、ゲッスンライト争奪戦はこじれまくって収集がつかなくなっちまっていた」
「そこで兄貴にご指名が下ったんだね」
「ああ、そんなこんなで誰もやりたかねえ話だったんだがな。命がいくつあっても足りねえ戦場にぶっ込まれるなんざ、いくら大義名分を掲げちゃいてもみんな本能がびびっちまってやりたがらねえのは当然さ」
「そういう意味では、兄貴はちょっとクレイジーだもんね」
「ケッ、余計なお世話だ」
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