野望の㉓
正太郎は、烈太郎に全速前進を指示した。その加速から起きる重圧に、常人なら一秒と耐えられず重大な障害を起こし兼ねない。
だが、生身の肉体を誇るネイチャーの彼でも、日頃から鍛え抜いた彼の体躯なればこそ、この加重圧に立ち向かうことが出来る。
「兄貴ぃ、大丈夫かい? ここのところのダメージで、兄貴の体はボロボロだろ? バイタルサインだってちょっとばかり変調を来たしているよ?」
「へっ、余計なことを心配すんじゃねえよ、烈。テメェは黙って俺の指示に従ってりゃいいんでい」
「何言ってるんだよう。オイラは、兄貴が存在してくれてこその戦闘マシンなんだからね。兄貴じゃなくちゃだめなんだからね!」
「ケッ、世辞を言うにも程があるぜ、烈。一色重工の桐野博士は、別にそんなコンセプトでお前を作ったりしちゃいねえ。それはただのお前の思い込みだぜ」
日頃から生活を共にし互いの生き死にに関わった生活を続けていると、いつの間にか人工知能たる烈太郎でも人間の様なものの考え方になってしまうらしい。
それが証拠に、彼は正太郎に過去を思い起こさせられるまで重大なことを記憶の片隅に追いやっていた。それが、エナ・リックバルトの過去の出来事である。
彼らは五年前のこの大地で巻き起こしたヴェルデムンドの戦乱の時、ゲッスンの谷と呼ばれるこの大地では大変珍しいクレーター状の大渓谷で一世一代の大攻防戦を相対したことがある。
ゲッスンの谷のゲッスンとは、ゲッスンライトと称された物質を含む鉱石を産出する地域であることから名づけられた地名である。
そのゲッスンライトとは、あらゆる電子回路に組み込むことにより、今までより十二分の一相当のエネルギー消費で稼働させることが可能となった貴重な物質である。
そのゲッスンライトという物質は、この世界のあらゆる事情によるフェイズウォーカー需要性や、新世界構成を大義名分とするヴェルデムンド新政府のヒューマンチューニング手術特需には特に欠かせない生命線として、新政府軍と反乱軍の間で争奪戦の的となったのだ。
その時代の各国々の宰相をして、
「ゲッスンの谷を制した者が、次の時代を制するだろう」
とまで言わしめた夢の様な鉱石の争奪戦は、過剰なほどの熱戦を呼び起こしていたのだ。
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