戦闘マシンの⑮


 烈太郎は、アイシャの迫力に気圧けおされた。この期に及んで照準をずらして撃つ意味が分からなかった。しかし、余りの彼女の真剣な声のトーンに烈太郎は従うしかなかった。

「分かったよ、アイ姉ちゃん! オイラには何が何だかわからないけど、アイ姉ちゃんの言う通りに撃つよ!」

 烈太郎は言いつつ目標の岩陰を背に機体を停止させると、足腰の部分から固定冶具をせり出してそれを地面に突き刺した。もうこうなれば、すぐさまレールキャノンを撃つしかない。空からはヴェロンの先鋒隊が手ぐすねを引いて今か今かと特攻するのを待っているのだ。一刻の猶予さえありはしない。

「目標、北北西仰角5度に修正!」

「オーケーです! 烈太郎さん、ただちに発射してください!」

「了解したよ、アイ姉ちゃん!! レールキャノン最大出力!!」

「発射!!」

「発射!!」

 両者のその掛け声とともに、肩口から長く伸びたレールキャノン二門両方から一弾ずつ凄まじい閃光を放ちながら弾頭が発射された。弾頭がレールキャノンを飛び立つや否や、人間の肉眼では到底確認不可能な速度で目前を突き抜けてゆく。その反動で、比較的軽量な烈風七型の機体は逆方向に押される。そしてコンマ一秒も経たない間に弾頭が自動的に破裂拡散し、小型の円錐形をした針のような弾頭が分散しながら巨木の森の木々を突き抜けてゆく。

 その突き抜けてゆく様は豪快で、弾頭と木々の摩擦熱によって爆炎の様な白い炎が燃え上がり、それが一瞬にして扇状に拡散してゆくのである。さらに着弾した木々は薙ぎ倒された状態のまま摩擦熱によって豪快に燃え広がった。巨木の森は次第に地獄絵図のような物々しい惨状へと変化していった。



 その状況に驚いたのは、数キロ先で苦戦を強いられていた正太郎である。彼は、武器弾薬が底をつき、凶獣ヴェロンのつるべ式攻撃の猛攻に逃げることさえもままならない状態で、塹壕の中を匍匐前進ほふくぜんしんしながら身を隠していたのである。

 しかし、耳をつんざく様な異音がしたと思いきや、忽ち巨木が薙ぎ倒されて燃え出したのだ。驚きのあまり何が起こったのかさえ反応に困る。

「おいおい、世の中には無茶苦茶するひでえ奴がいるもんだな。こんな戦略立てる奴ってなあ、一体どこのどいつんだい!?」

 そう口走ってみたものの、まさかそれがアイシャと烈太郎の仕業であると、今の正太郎には知る由もない。

「まあ、これで少しは助かった……。ヴェロンは割と火に弱い生き物だ。森を燻せば大群を分散させられる。その代わりと言ってはなんだが、もうこの土地は死んだも同然だ。木々が死んだら水の確保すら出来ねえからな」

 このヴェルデムンドという大地には海が無い。その代わりに、巨木や巨大な植物が自然のダムの役割を担い、天然の水道となって人々に恩恵を与えてくれている。そのお陰で、メトロポリス化された寄留地クレイドルは、比較的資源に苦悩せず運営が可能というわけだ。無論、その森が死ねば飲み水や資源水の確保さえ危うい状態になる。

「共存共栄がこの大地の鉄則だからな。しかし、自分たちの命が無くなるかどうかの瀬戸際じゃあ、それも仕方ねえか」

 正太郎は、先程まで上空が真っ黒に染まるほどに集まっていたヴェロンの大群が引けたことを確認すると、塹壕からひょっこり身を乗り出し、胸ポケットから双眼鏡を取り出して辺りを見渡した。

「くうう、ホント焼けてるねえ。おたおたしてると、今度はこっちが酸欠で死んじまうかも……」




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る