戦闘マシンの⑭
両者は息を飲んだ。撃てば、かなり高い確率で身の危険に晒されてしまうからだ。ヴェロンの偵察隊や先鋒隊が烈風七型を照準に入れているのは間違いない。だが、こちら側も5キロメートル先のヴェロンの大群に照準を合わせている。
これは、引き金を引いた瞬間に状況が一変してしまう一大事なのだ。
アイシャは上空のヴェロンの動きに集中した。死を覚悟したとは言っても本能がそれを許さない。自分だけならいざ知らず、烈太郎がやられてしまえば第二防衛線辺りにいるであろう正太郎の存命率にも関わる事態なのだ。何とかこの烈風七型を無事彼に送り届け、少しでも正太郎に生き延びてもらいたい。
「烈太郎さん、前方に小高い岩陰が見え隠れしています。そこを背にして撃ちましょう」
「分かったよ、アイ姉ちゃん。ちょっとでもあいつらの死角になるような所で撃つんだね」
烈太郎は即座に方向を切り替えず、ヴェロンの偵察隊に陽動をかけるように遠まわりをして岩陰を目指した。無論、知能が発達したヴェロンを想定しての行動だ。
アイシャは、言葉を交わさずともそれを理解した。自分だったらこうする。その考え方が烈太郎と同調しているのだ。
「目算で十五秒後に岩陰に到達するよ」
「なら、カウントを合わせます。いいですか? いきます。十、九、八……」
数を減らしてゆくたび、両者の緊張は高まった。このカウントを終えた時、自らの人生も終わってしまうかもしれない。しかし、それをしないことは自らの恥でしかない。
アイシャはこの瞬間、走馬灯の様に記憶の断片が頭の中を駆け巡っていた。懐の深く謎めいた父、ゲネックの事。そして愛情に満ち溢れていながらも、若くして他界した母、アネットのこと。アヴェルを始めとした多くの兄妹たちのことや、さらに知り合って間もなく愛し合った正太郎のこと。集約された記憶が一瞬に凝縮された時、アイシャの集中力は頂点に達していた。
その時である――
アイシャの目に映る物に飛び切りの変化が起きた。意識が集中しすぎる余り、モニター越しの視界に映る光景に異変を感じたのだ。
「烈太郎さん! 何か変です! 外の様子が何かおかしいのです!」
アイシャは唐突に声を張り上げるが、
「えっ!? ダメだよアイ姉ちゃん! レールキャノンの出力を上げちゃったから、もう止められないよう!」
カウントはもうゼロを切っている。ここで止まってレールキャノンを撃たなければ、最大出力までボルテージを上げてきた電力のやり場が損なわれ、烈風七型全体に逆流オーバーロードを起こし兼ねない。
「なら、撃ってください! でも、仰角は20度修正の5度で!」
「えっ!? それどういうこと!?」
「いいから言う通りに撃って! これは私の最後の我が儘です!」
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