戦闘マシンの⑯


 とは言ったものの、彼とてのんびりと鎮火を待っているわけにもいかなかった。この状況を利用して、一旦武器の補充と、生き残り部隊との連携を考えなければ生き残ることすら危ういのだ。

 辺りはもう、地獄の業火の一歩手前の状態だった。この大地の木々はあまりにも巨大なために、一本の木が丸々燃え尽きるまでには時間が掛かる。まして、木の種類によっては水道管のように水を溜め込む性質の物まで存在する。その中でもホロホロの木と称される巨木に至っては、塩分を含んだ地下水をろ過し真水に変えてくれてさえいるのだ。

「この大地は生きている。この程度のダメージなんかにへこたれねえぐれえ逞しくな。だがよ、それを善しとしねえ奴らがのっそり顔を出したって証拠だな……」

 正太郎は言いつつ、鳴子沢大膳のあの言葉を思い出していた。

「我々は、君がまだ子供だった時代から戦い続けているのだよ――」

 正にこの事態こそが、彼の言葉を証明するものなのかもしれない。

 凶獣ヴェロンを始めとした肉食系植物の進化。これはこの大地の異常事態を表している。

 この大地は、植物がヒエラルキーの頂点に君臨している意味は、単純に動物や魚類、虫といった生物よりも体積があり、それでいて空間を自由に支配している率が高かったためである。それに加え、異常なほどの肉食系植物の種類の多さがそれを後押ししていた。皮肉なことに、その状態こそがこの大地の循環としては正常な状態だったのだ。

 我々人類にとってはかなり厳しい環境ではあったものの、これこそがこの世界の循環と言う意味からすれば、良いバランスの取れたヒエラルキーとも言えるのだ。

 だが、今回の肉食系植物の進化を鑑みれば、これが何を意味するものなのか考えなければならない。

「調子良く回っていた歯車に、無理矢理油を挿してギアをとんでもなく上げた馬鹿がいるってことよ。そして、それに便乗しちまったハイエナみてえな輩なんかもな……」

 正太郎は、塹壕に止めてあったバギーに跨った。射出系の武器は使い果たしたために、一応レーザーナイフをすぐ取り出せるように携帯し、白兵戦用のヘルメットを被り直す。 

 すると、目の前で燃え落ちる木々の断片から、これまでに見たこともない物が崩れ落ちてきた。

「ぐっ……、なんでえ、これは!!」

 その崩れ落ちてきた物を見るや、正太郎はこの一連の騒動の片鱗を確信してしまった。

「やはりそうか、俺の睨んだ通りだ。これでこの惨劇を画策した奴の顔がハッキリと思い浮かんだぜ。そうか、お前が世界を滅ぼしたかったのかよ」

 彼はそう言うとバギーのスロットルを全開にし、火の海を回避しながら寄留地へと向かった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る