戦闘マシンの⑨
正太郎の脳裏には、その要素が当てはまる人物の面影が次々と浮かんでくる。
しかし、この戦略を思いついた人物が絶対にその中にいるとは限らない。なにせ、戦略が思い浮かんだとしても、どうやって肉食系の植物たちを手懐けられたものだろうか。まして進化を与えるなどと。
とは言え、今はこういった世の中である。人工知能の戦闘マシンやアンドロイドといった自律系ロボットと日常的に会話ができる時代なのだ。千年も前に生きていた人々から見れば、それだけで神や仏といった奇跡よりも信じ難い出来事である。
「てえことは、当たっては欲しくねえがやっぱり……」
正太郎は、溜め息と共に苦虫を噛み潰した。
「烈太郎さん! ご、ごめんなさい……もう少し、だけ……スピードを落としていただけませんか?」
アイシャは思いっきり目を瞑り、震える手でぎっちりと手綱を握り締める。ヴェルデムンド特有の巨木の合間をすり抜け、空から矢の雨ように降り注ぐヴェロンの突撃をかわして行くたびに、思わず悲鳴を上げ目を回す。
「ごめんよ、アイ姉ちゃん。敵の攻撃が厳しくて、これ以上はスピードを落とせないんだ。もうちょっと我慢してね」
烈太郎は、これでもアイシャを気遣ってあらゆる動きを制限している。もし、烈太郎が本気を出してしまえば、彼女は失神確定である。そればかりか、転回する際のGによって肉体に悪い影響を及ぼす可能性さえある。
「本当にごめんなさい。私、正太郎様に会いたい一心でこんな我が儘を言ってしまったのだけれど、ご迷惑なんてレベルではないですね……」
「いいって、アイ姉ちゃん。オイラ、アイ姉ちゃんが居なければ、あのままヴェロンに突っ込まれてやられてたかもしれなかったんだ。だから、オイラは半分アイ姉ちゃんの物みたいなものなんだよ」
「本当にあなたはお優しい方なのですね。なんだか、とっても救われます」
「そう言えばさ、オイラ、兄貴以外の人を乗せたことがなかったんだ。アイ姉ちゃんが初めてだな」
「あら、そうなのですか?」
「オイラを作った桐野博士って人がいるんだけど、兄貴は特別な人だから他の人は乗せちゃいけないって言われてたんだっけ。でも、アイ姉ちゃんは意外に大丈夫なんだね」
「それは烈太郎さんが、力をセーブしてくれているからなのでは?」
「そうなのかなあ。桐野博士って人は、結構変わった人だったけれど、いい加減なことを言う人じゃなかったんだけどなあ」
そう言った途端に、機体はヴェロンの攻撃を受け流すために急転回する。そのお陰で華奢なアイシャの体は遠心力に耐えられずコックピットの壁に背中を強く打ち付けられてしまった。
「だ、大丈夫かい!? アイ姉ちゃん!!」
「え、ええ……何とか」
そう言いながら、彼女はみぞおちの辺りを強く打ったらしく、まだ呼吸が上手くできない。
「本当にごめんよ。今のはオイラでも避けるのが精一杯だったんだ」
「ええ、解かっています。烈太郎さん、あなたのせいではありません。私が軟弱なだけなのです。気にしないでください」
言いながらも、アイシャは毅然とした態度を取ろうとするが、もうグロッギーに近い状態なのがバイタルサインを使わずとも目に見えて窺える程だ。
「ねえ、アイ姉ちゃん。オイラから頼みがあるんだけど聞いてくれる?」
「ええ、なんでしょう?」
返答するのもやっとな感じのアイシャ。しかし、烈太郎は、
「オイラ、こんな攻撃を受けるの初めてで、避けるだけで精一杯なんだ。だから、アイ姉ちゃん。オイラの目になってよ」
「ええっ!?」
「だって、アイ姉ちゃんはさっきから木の棒だとか色々と見えてるんだろ? だから恐くて目を瞑っているんだろ?」
「ええ、まあ……」
「なら、正太郎の兄貴と同じぐらい目がいいってことじゃんか」
「そうなのですか?」
「そうだよ。オイラの兄貴は、こんなに速い動きでも止まって見える時があるぐらい凄いんだけどさ。アイ姉ちゃんも結構いけるんじゃない?」
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