戦闘マシンの⑩
アイシャは、烈太郎に促されるまま恐る恐る目を開いた。すると不思議なことに、状況に慣れてきたのか前より怖さが半減していた。
「どう、アイ姉ちゃん? 何とかいけそうかな?」
「ええ……でもまだ」
「いいよ、無理しなくて。ただ、オイラの見ている物以外を感じてくれればいいんだ」
「か、感じるのですね……。やってみます」
アイシャはできるだけ怖れを我慢して目を見開いた。彼女には迫りくる巨木の壁に激突しそうに見えているが、実は烈太郎の動きは確実にそれを避けてくれている。今まで目を瞑っていたときの方が、体を無理矢理踏ん張らせていたために無駄な力を入れていたことに気づいた。
「こんな世界があったのですね」
先程の急転回によって体を打ち付けたのが功を奏している。痛みを体全体で覚えたことで、何か余計なものが削ぎ落されたような気がするのである。
周囲が見えてくると、不思議と体がそれに反応する。烈太郎が右に転回すれば、アイシャの体も右に。烈太郎が小さくジャンプすれば、彼女も体をひょいと浮かす。余計な力など入れることなく体勢が自然に保たれてゆく。
「その調子、その調子! さすがアイ姉ちゃんだね、飲み込みが速いよ」
「ありがとうございます」
「ならさ、もっとスピードを上げるね」
「えっ!? ちょっと待ってください……ああっ!」
やっと目が慣れてきたと思ったら、烈太郎は今までより130%アップの出力でダッシュした。いきなりの加速重力に意識が置いて行かれそうに感じたが、数十秒もすれば簡単に目も肉体的感覚も慣れてしまう。
「これが実戦速度ってやつだよ、アイ姉ちゃん。このスピードが出せれば、いくらヴェロンが何体いたって」
「えっ!? 烈太郎さん、今なんて言いましたか?」
「だからね、このスピードさえあれば戦えるってことだよ」
「た、戦うのですか? 私が?」
「うん、そうだよ。だって、戦わなかったらこっちがやられちゃうだろ?」
「は、はい……、い、いや、でも……」
「アイ姉ちゃん。ここは戦場だよ? 生きるか死ぬかの瀬戸際なんだからね、オイラたち」
「ええ……ならば、私でよろしいのでしたらやってみます」
「大丈夫だよ、主動はオイラがやるから。アイ姉ちゃんは、オイラの気づかない所を教えてくれればいいよ」
フェイズウォーカーの操縦は多種多様である。生身のネイチャーとの連動では、搭載人工知能が主動で戦闘を行う場合もあれば、パイロットが主動で行う場合もある。これがミックスやアンドロイドとの連動ともなれば、インタラクティブコネクトによって意識を搭載された人工知能と融合させることも可能である。
フェイズウォーカーの強みは、一つの体の中に二つの意識があることで相乗効果を生むことである。意識が複数あることで志向性が多様化し、注意力も倍加する。
しかし、良い事ばかりを生むわけではない。人工知能とパイロットとの連動が合わなければ、たちまちそのポテンシャルは削がれてしまい、存分な力を発揮するまでもなく撃墜される。
「アイ姉ちゃん。アイ姉ちゃんは、兄貴に絶対会いたいんだろ? それなら、絶対に生き残るんだ。この状況を生き残ることが第一関門だからね」
「はい、私、絶対に生き残って見せます。絶対に正太郎様に会いに行きます!」
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