戦闘マシンの⑧
「迷ってる暇はねえ、早えとこ勝利の糸口を見つけ出さねえと全滅だ」
正太郎が、背骨折りの背骨を見出すには、彼独特の手順がある。
先ずは、もう一人の自分を作り、自分と相対する視点を設ける。そして、
「この俺が、この第十五寄留ブラフマデージャを全滅させるならどうするかを本気で考える……」
いわば、本気で全滅させるシミュレーションを短時間で行うのだ。
並みの人間であれば、味方を救う方法か勝利する方法を模索するところだが、正太郎が真っ先にやるのが敵の視点になって味方を制圧、または全滅させる思考から始めるのである。
特に、こういった戦闘中であれば、敵が何をしているのかが尚更分かり易い。正太郎にとって目の前で手の内をさらけ出して見せられているようなものなのだ。それは想像するまでもない事象のデータなのだ。
すると、彼自身に敵の意思の様なものが見えてくる。あくまで仮定した敵の首謀者という存在なのだが、正太郎自身が想像した首謀者になり切ることで、相手の性格や思考経路までが丸裸になってくるのだ。
「こいつは、なんてえ嫉妬深い野郎なんだ……」
敵の首謀者になり切った自分と、それに相対している元の自分。それを第三者の目で観察している第三の自分が事の感想を述べる。
実は、その第三の自分を配置することが鍵となる。なぜなら、第三の自分を配置しなければ、敵の首謀者になり切った自分が敵の意思に取り込まれ、ミイラ取りがミイラになってしまう確率が高いからだ。
世の中には、数多くの優秀な人材が生まれては消えていった。その中には、正義感や興味本位で対象となる人間や思想に足を踏み入れ、取り込まれていった人々も少なくない。
大抵そういった場合は、自らの目的を見失い、対象となるものの目的に方向性を奪われてしまうのだ。
羽間正太郎は、生まれつきなのかそうではないのか定かではないが、そういった第三者の目を物心ついた時から持っていた。彼の恩人であるゲネック・アルサンダールは、正太郎のその第三者としての目が自然に彼の中に存在していることに気づいていた。
無論、彼自身にもそういった目があるから理解できることで、同じく末娘であるアイシャにもそれが備わっていることも同様だった。
時々、第三者の目を自然に持つ者は自制的で理性的だと噂されるが、必ずしもそうとは限らない。なぜなら、第三者の目は単に第三者の目であって、それは言うなれば道具にすぎないからだ。簡単に言えば、それを悪用することも可能なのだ。
相手がこのように出てくるなら、自分はこうする――。
それを第三者の目で常時観察していれば、即座に判断し、右にも左にも相手を転がすことが出来る。それが彼らの力なのだ。
あなたが世界を滅ぼしたいのなら――?
ゲネック・アルサンダールが、羽間正太郎やアイシャに伝えた言葉は、自らの持つ力への戒めの意味も含まれている。
「分かるぜ、敵さんよう。お前が俺たちと同じ目を持った凄まじい奴だってことがよう。それと同時に、お前が生真面目で嫉妬深くて天才的な腕を持った何かだって事までがな……」
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