戦闘マシンの⑦


 以前、この第十五寄留ブラフマデージャ軍に辿り着く前に荒くれ者の運び屋達が噂をしていた。第十三寄留ムスペルヘイムの大崩落。これもまた、このようなヴェロンの無差別攻撃に遭った可能性が予想される。

 何を以って何を意図してこんな虐殺が計画されるのか?

 正太郎はそう考えた時、一つ見落としていたことを思い出した。

「俺は、まだ敵に取り込まれたままだった。これでは敵の思う壺だ……」

 羽間正太郎が、このヴェルデムンドの大地に足を踏み入れた頃、主に戦闘やサバイバル術を教え込んでくれたのはアヴェルやアイシャの父、ゲネック・アルサンダールだった。

 そのゲネックという男が、特に口癖にしていた言葉が、

「羽間正太郎、戦闘や戦略を行う時は必ず――あなたが世界を滅ぼしたいのなら?――という疑問符を持て。でなければ、お前は相手の考えに永遠に飲み込まれたままだ。これはお前だから言うのだ。心しておくのだ」

 というわけだ。ゲネック・アルサンダールにとって、戦略の糸口を掴む呪文のような言葉なのだそうだ。

 つまり、

「第一は敵を知る事。敵が何を欲し、何を目的としているのかを知らねば、相手の行動は読めない。羽間正太郎。これは誰もが出来る芸当ではない。お主だからこそわしは口にしたのだ」

 戦乱が激しくなる以前から、ゲネックは正太郎に対し何度も何度もそれを言い聞かせていた。だからこそ正太郎は“ヴェルデムンドの背骨折り”と呼ばれる程の功績を上げられたのだ。

 だが、人間というのはいくら体に沁み込むぐらい理解していたとしても、切羽詰まれば大事な言葉さえ置き去りにしてしまう。

「いけねえ、いけねえ。俺ァ、あれだけゲネックのおやっさんに口を酸っぱくして言われてた言葉を忘れちまっていた。“あなたが世界を滅ぼしたいのなら――”。確かアイシャにもさっきそう言われてたんだっけな」

 彼は言いつつ、突撃して来るヴェロンにミサイルを撃ち込みながら塹壕にバギーを落とし込み、自らの身を隠す。手持ちの武器の残弾も数少なくなり、打つ手を考えなければならなくなったのだ。

 

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