戦闘マシンの⑥

 ※※※



「右だ! 右から回り込め! 寄留地のトーチカから中に近づけるな! 絶対にシェルターのある市街地付近に入り込まれるんじゃないぞ!」

 正太郎の駆る高速ホバーバギーにも防衛部隊の怒号にも似た通信が流れ込んで来る。

 圧倒的に劣勢であるブラフマデージャ軍は、およそ数千体にも及ぶヴェロンの襲来に対して地上からの攻撃のみで防がねばならない。

 ましてや無差別に体当たりの特攻を仕掛けられたからには、こちら側も死力を尽くして防御に当たらなければならないのだ。

 凶獣ヴェロンは肉食系の植物であり、いつも通り捕食を行った後はくちばしの様な先端を地面に本体ごと突き刺してそのまま根を張って成長する。

 敵はその習性を活かし、人間目掛けて特攻を咬ませた後に建物ごと根を張らせ制圧する算段らしい。

「よくもこんなに増殖したもんだぜ!」

 さすがの正太郎でも、こんな状況では対応しようがなかった。

 もし、引火性の燃料の付いた火矢を放ったとしても、逆にヴェロンに引火した火がこちら側に甚大な被害を及ぼすことは必至で、ミサイル攻撃を掛けたとしても、第二波、第三波と連続攻撃を仕掛けられている。まして、否応なしに来る上方からの攻撃ともなれば、対応に手間取るのは目に見えていた。

 それでもブラフマデージャ軍はひるまなかった。元より、彼らの団結心は血の繋がりよりも濃い。

 羽間正太郎も、彼らの意気込みに感嘆し熱くなっていた。

「その喧嘩、俺も乗ったぜ!」

 彼の目の前で、ブラフマデージャ軍の主力武器であるフェイズウォーカー“チャクラマカーン”が突撃してくるヴェロンに対しジャンプして接近戦を仕掛ける。そのチャクラマカーンがレーザソードでヴェロンを真っ二つに切り裂くと、またヴェロンが息も付かせず飛んできて、そのチャクラマカーンの機体を圧し潰す。

 だが、その圧し潰された機体も負けてはいない。圧し潰しに来たヴェロンの腹を目掛けて近接武器である円月輪を撃ち込み、そこで絶命する。それが幾重にも幾重にも続き、やがてその場はヴェロンと圧し潰されたチャクラマカーンの残骸の山になるのである。

 なんとも圧巻であった。彼らブラフマデージャ軍のパイロットたちは、死も恐れずはなからそういったヴェロンの攻撃を予期し対応を繰り返しているのだ。この光景を目の当たりにして血の震えぬ者などいない。

 正太郎は涙で溢れかえっていた。勇敢である以上に尊いとさえ思えた。自らの種の存続を賭け、必死に守り抜こうとする彼らの姿勢は、正に生物の生きる意味の原点を指し示したものである。

「しかし、このまま消耗を繰り返せば、いずれこちら側の戦力は尽きる。その前に何とか対策を考えねえと、この寄留地は滅ぶ……」

 

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