戦闘マシンの②


 あまりの危機的状況を背に、絶対的な無力感に襲われてしまうアイシャだった。

 彼女は、自然に正太郎の乗って来た輸送機へと足が向いた。彼の生きてきた確証を得たいと思ったからだ。

 だが、そこにあるのは何の変哲もないどこにでもあるホバークラフト型輸送機であり、彼個人の所有する物ではなかった。それが証拠に、今はもう風前の灯火となってしまったヴェルデムンド新政府軍のエンブレムが至るところに記されている。

「新政府軍とは言うけれど、時の流れというものは本当に恐ろしいものですね」

 アイシャがこの地に足を踏み入れた時、彼女はまだ十三才であった。

 その頃は、この第十五寄留も建設が始まったばかりで、今のような体制になるなど想像すらできない時代であった。

 その二年後にあの戦乱が始まるのだが、彼女の父ゲネックは、まるでその確執を予期していたかの如くどこかに出向いてはまた家族の元に戻ってきてを繰り返している。

 その時に巡り会い、親身になって戦い方などを伝授していたのが羽間正太郎というわけだ。

 そんな羽間正太郎らを中心としたヴェルデムンドの戦乱が起こり、激しい戦いが収まったと思いきや、それから五年が経った今は、もうその新政府軍の見る影もない時代に突入したわけである。

 そして、ペルゼデール軍が台頭して来たと思いきや、思いもよらなかった謎の第三勢力が今まさにこの寄留地に襲い掛かろうとしている。

「お父様、本当にこの世界は呪われているとしか思えないのです。戦う理由が全く見えてこないのですから。それがあるのだとしたら、一体何なのでしょう?」

 聡明な彼女ですら見えてこないものがそれであった。

 人は戦いをする生き物である。それは一見、悪と捉えられがちだが、実際には生き物というものが存続するには何らかの戦いという行動が付きまとう。

 しかし、その生物的自然な要素を理解できていたとしても、今の状況を精査するとその理由とは全く符合しないものが見え隠れしてしまう。

「誰かの意図を強く感じるのです。ですが、それが私には全く見えてこないのです。もしかしてお父様はそれををお解かりになっておられたのかしら?」

 可能であるならば、彼女は亡き父に連絡を取って、父が生前に何をしようとしていたのか根掘り葉掘り問い質したい気分だった。

 父ゲネックは、アイシャの聡明な才能を高く買っていたが、アイシャ自身がいくら才能を持っていたとしてもそれはそれ。経験も見聞も少ない少女時代の理解というのはそれまでのもの。ようやく大人の仲間入りをした今なら理解し得る話であったとしても、父の話を耳にしていた時代ではそこまでの理解の深さは持ち合させていようはずがない。

「きっと、お父様も歯痒い思いだったことでしょうね……」

 そんな思いにふけっていると、彼女は輸送機の後部にある格納ハッチの部分に辿り着いた。

 そこはフェイズウォーカーなどのユニットが格納されるためのスペースで、女性にしては比較的身長がある彼女であっても余裕で身の丈が隠れてしまう程の大きさがあった。

「ここには何が入っているのかしら?」

 そんな興味が先に走り、彼女は思わずハッチの開閉ボタンに手を触れてしまった。すると、

「まあ、これは噂に聞いていた烈風七型機動試作機というものではありませんか!?」


 

 

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