第六章【戦闘マシンの涙】
戦闘マシンの①
※※※
正太郎はあの時のように、ありったけの携行武器を高速バギーに積み込んで格納庫から飛び出して行った。
最早武器を沢山積み込んだからと言って、勝ち目のある
その事を一晩共にしただけで理解してしまったアイシャ・アルサンダールは、亡き父の、
「羽間正太郎を、この寄留地に留めておくのだ」
という遺言とも取れる忠告を受けながらも、どうしても自らの寝屋に引き留めておくことが出来なかった。
「お父様。私はあの方の思うようにして頂きたいのです。そうでなければ意味がありません」
彼女と正太郎は、ある意味同じ種類の人間だった。幼い頃より洞察力に優れ、物事の本質を瞬時に理解してしまう。時には類稀なる創造力で物事を良き方向に解決させ、他者から重宝がられる存在という所も一緒だった。
しかし、この能力が自らの
実のところ、アイシャの本心は正太郎を鎖で繋いででも戦闘には出したくなかった。どんな最悪な状況であろうとも、あの寝屋で死ぬまで時を明かしたかった。
感覚的とでもいうのだろうか、やっと自分という存在を根底からさほど言葉を交わさずとも理解し合える異性が目の前に現れたのだ。これを僥倖と呼ばずして、何を僥倖と呼べるものだろうか。
しかし彼女は、そのやっと巡り会えた人物を見す見す逃してしまったのだ。なぜなら、彼女はその本質を瞬時に見通してしまう能力がゆえに、羽間正太郎を自分の傍に置いておく事が得策でないことを理解してしまっていたからだ。
「正太郎様は、私一人の為だけに居てもらうにはとても勿体ないお方なのだから……」
彼女のような特殊な力を持つ人は、どうしても自らの幸せを大前提に考えられない宿命を背負ってしまう。どんなに我が儘を通したくとも、どうしてもその運命の呪縛から逃れられない悲しさがある。
「だから、せめてあの方には生き延びて頂きたい」
そんな思いから、アイシャは正太郎の後を追うように格納庫へと足を運んだ。しかし、それはもうすでに時は遅く、彼は出撃した後だった。
せめて、彼の出撃する瞬間の背中を一目見ておきたかった彼女は、唐突に空虚な心に苛まれてしまい、その場にへたり込んでしまった。
その光景に一早く気づいた将校が駆け寄ってきて、
「ア、アイシャ様! こんな所でどうかなさいましたか? 格納庫とは言えここはもう戦場の様相を呈しています。比較的とは申せど、ここより安全であるシェルターに避難なさってください。お気分が優れないのでしたら衛生兵をお呼びしますから……」
「い、いいえ、大丈夫です、自分で何とか致します。戦闘員でもない私がこんな場所をうろついていること自体ご迷惑でしょうから。あなた様方も何卒お命だけはお大事になさってください」
「アイシャ様、勿体ないお言葉……」
将校は、じんわりと涙を溜め込みながら一礼をしてこの場を去った。この状況にして死を覚悟した所以である。日頃から人望のあるアイシャに温かみのある声を掛けられたことで、死を意識した将校の心にほんの少しだけ余裕が生まれた瞬間である。
「何かと大事に育てられて……でも、私はこんな時に何も出来ない」
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