激突の㉒

 

 いくら正太郎でも、考えれば考える程焦りの色は濃くなるばかりである。なにせ、手立てが薄いのだ。いわばこの状況は将棋盤の上から攻撃されるようなもので、今までの戦略より立体的に対応しなければならない。

 にもかかわらず、こちら側の戦力は平面上の戦略を中心とした兵器がメインである。このヴェルデムンドという地の利を考えれば、それが今までのセオリーでありそれが常套手段であった。だが、そのセオリーがたった今崩れた状況なのだ。これを迎え撃つということは、すなわち甚大な被害を被ってしまうという意味の表れでもある。

「どうあっても犠牲は避けられねえってか? ああ、もう、クソッ! 俺という人間がここにいながら、まざまざと敵にしてやられるなんて、この俺のプライドが許さねえ!」

 正太郎は、髪を掻きむしるように頭をグシャグシャとやって歯を食いしばる。こんな時の彼は自意識が過剰になり、武者震いが止まらなくなる。

 彼はたまらずに輸送機の格納部分のハッチを開けて、座り込んで黙ったままの烈太郎に向かって大声で叫んだ。

「なあバカ烈よ! 俺ァなあ、正義だとか未来だとかそういう話を抜きにして、何もしねえで負けるってのが一番でえ嫌れえなんだ! いつまでもうだうだといじけて考えてねえで、さっさとこの俺と戦えってんだ! てめえは戦闘マシンなんだからよ!」

 世界一繊細な心を持つ戦闘マシン。それが烈風七型高速機動試作機、烈太郎の第一の特性である。

「これまでてめえを大目に見てきたがよ、これが潮時かもしれんな! ここ一番てえ時に何もしねえ何も出来ねえ奴ァ、こっちから願い下げだ! それが嫌だったらさっさと目を覚まして俺と共に死ぬ気で戦え!」

 腹の底から張り上げた彼の声は、辺りを駆け回っていた兵たちをもビクつかせるほどの迫力があった。しかし、当の烈太郎からの反応はない。

「ああ分かった、じゃあこれでもうお別れだな、バカ烈よ。俺ァ今度こそあの世行き確定だ。長年連れ添ったてめえとも、もう顔を合わすこたあねえだろうよ。じゃあなバカ烈」

 正太郎はそれを言い終えると、静かに輸送機のハッチ閉じた。

 そして輸送機に背を向けると、

「だがよ、てめえのような奴が相棒で、俺は不幸だなんて今の今まで一度も思ったこたあねえぜ。静かに暮らせよ、バカ烈」

 そう言い残してその場を去った。



 

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