激突の㉑
「おい! 敵は空から来たとか言ったな! てえことは、やはりヴェロンの大群か?」
正太郎は、フェイズウォーカー格納庫まで一目散に駆け寄ると、目に付いた整備兵に食いついた。
「は、はあ。全ての確認は出来ておりませんが、指令室からの情報ではそのように聞いております……」
整備兵は受け答えしながらも、正太郎の衣服の乱れと首筋から見えるキスマークの痕が気になって視線を上下させる。
「やはりそう来たか。ブラフマデージャの戦力は、近接戦闘型のチャクラマカーンがメインだ。後は、移動式対空砲やミサイル兵器類で応戦ってな。単純な作戦だが、これが一番厄介なんだよな」
この世界では、空中戦という概念は一切ない。なぜなら、空中に物を飛ばしたり打ち上げたりすれば、巨大なつる植物に片っ端から撃ち落されてしまうからだ。それゆえに、飛行技術を持った兵器はおろか、GPS衛星ですら打ち上げられない始末である。とりもなおさず、戦略的な空からの攻撃という概念など絶対にあり得なかったのだ。
そのあり得ない状況を確実に読んで攻めてくるともなれば、これは本当に正太郎の考えていたことが現実に証明されたことになる。
「奴らは進化した上に、何者かとつるんでやがったんだ……」
正太郎は、様々な思案を巡らせながら自らの乗って来たホバー型輸送機に駆け寄ろうとすると、
「羽間正太郎様! 大統領閣下から直伝が入っています。こちらの通信回線から虹彩認証を行って通信をお受けください」
と、近くにいた兵が追ってきて、簡易モニターの付いた軍用の通信機を手渡してきた。
「おう、アヴェルか! えらいことになったな。そっちの見解はどうなんだ?」
正太郎が、素早く回線を開くと、アヴェル・アルサンダールは神妙な面持ちで、
「無論、一般市民はシェルターに避難指示を出しているが、問題はこれをどう防ぐかだ。この世界でこれだけの数の空からの攻撃は前代未聞だ。これではこの世界の生き物の全てが我々の敵になったようだな。覚悟はしていたが、まさかこういう手で出てくるとは恐れ入ったぞ」
「何を呑気なことを言ってるんでえ。まったくお前さんは、やはり大物だな」
すると、アヴェルは豪快に大笑いをして、
「羽間正太郎。私はお前にそういう言葉を掛けてもらえるのを期待して、この回線を開いたのだ。感謝するぞ」
そう言って、あちらから回線を切ってしまった。
この非常事態に、大統領という任を冠してのこういうやり取りはかなり非常識である。だが、そうまでしても気持ちを落ち着かせたかったのだと思うと、正太郎はアヴェルという男にさらなる敬意を払わなければならない。
「端くれに生きる俺と、国を背負って生きる者の違いってやつだな……」
格納庫を行き来する整備兵やパイロットたちは、見るからに動揺を隠せず、右往左往する様子が見て取れる。それは、先程まで話していた指導者にも言えることで、対応しようにも対応し切れる状況ではない証拠なのだ。
それでも、格納庫から続々とフェイズウォーカー“チャクラマカーン”の小隊が発進する姿があった。
いくら強力と名高いブラフマデージャの誇る軍隊とは言えど、このようなケースでの戦闘は予想の範疇を超えている。しかも、この寄留に生きる者の殆どはヒューマンチューニング手術を受けていない生身の戦闘員ばかりである。
「これではみんな死にに行くだけだ。何か、何かいい手はねえもんだろうか……」
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