激突の⑪


 正太郎は混乱した。

 あの“黒い嵐の事変”と呼ばれている氷嵐の晩以来、この大地の各所で何かが大きく変わりつつあることだけは分かっていた。

 かつての戦友であったジェリー・アトキンスらの不穏な行動然り、かねてより温厚で誠実な人柄であった鳴子沢大膳の急激な変貌であったり、挙句の果てに鳴子沢小紋の秘書官アンドロイドであったマリダ・ミル・クラルインが革命後の国の女王に仕立て上げられてみたり。

 そこに来ての肉食系植物の急激な進化とあらば、この時点で何かが裏で進行していると思わない方が愚鈍の極みである。

「とは言え、今はそんなことを悠長に考えている暇なんかねえ。このまま指を咥えたままじゃ、無意味な墓標がわんさと立つだけだ。俺ァそんなクソつまらねえ世の中に生きたくてネイチャーの道を選んだわけじゃねえ!」

 正太郎は考えた。

 奴ら肉食系植物は進化していることで間違いはない。もし、これが進化でないと仮定するならば、前例のない擬態化をしてまで捕食を待つという行動はあり得ないのだ。以前の奴らなら、獲物を確認した時点で捕食行動に入っているのだ。それをわざわざ交渉の隙を狙って身を構えるなど、以前より賢くなった証拠であると見て間違いはない。

「てえことはよ、こいつらの急激な進化には理由があるってことだよな。考えられるのは、何者かの目的があって進化の要因を得たか? もしくは、環境に適合するために進化したのか?」

 彼は大まかに二つの案を挙げてみたが、後者である環境による進化というのは期間的な意味ですでに無理がある。よって、第三者による進化の要因が与えられたという考えに至る。

「この考えに根拠はねえが、この切羽詰まった状況で四の五の余計なことに時間を費やしてる暇もねえ。こいつらが人間の考えを読むぐらいの知能の進化を遂げたのは、俺の見立てでは間違いのねえことだ。ならば、俺はそれを利用させてもらう!」

 この考え方が、“ヴェルデムンドの背骨折りバックブリーカー”と呼ばれる所以である。

 彼は、類稀なる感覚を駆使し、一瞬にして正確な状況を把握し一瞬にして相手方の本質を見抜いてしまう。そして、相手方の本質を見出した所でその本質自体をへし折ろうと画策するのである。

「できるかどうかは分からねえ。だがよ、世の中に完璧な作戦なんてありゃしねえんだ。だからこそ俺ァ背骨から狙ってやるんだよ!」

 



 

 

 

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