激突の⑩
見え過ぎるということは、考えようによってはひどく恐ろしいものである。
意を決した今現在の正太郎の目に映るもの。その正体とは、ヴェルデムンド特有の巨木に擬態化した肉食系植物の大群であった。
「凶獣ヴェロン……だけじゃねえ。グレイピーナッツにローゼンデビルまでいやがる。こいつらみんな、葉っぱや木の幹に体の色を変えてやがったのか……」
彼の体を通して伝わって来た意識の正体とは、肉食系植物の存在を察知したものであった。
怪鳥を想起させる巨大な肉食系植物ヴェロンは巨大な木の葉にその全身を擬態化し、グレイピーナッツやローゼンデビルといった小型の捕食系器官は、巨木の幹に色を変え幾重にも張り付いている。その異様さとグロテスクさと言ったら、さすがの正太郎でも虫唾が走るほどの嫌悪感を覚えてしまう。
そんな肉食系植物の大群が、全く音もたてず、まるで一堂に会した凶信者のような佇まいで獲物を狙っているのである。
驚愕を禁じ得ない正太郎は、震える心を抑えつつも、ざっと辺りを見渡した。その限りでもその数合わせて二百体は下らない。肉食系植物の襲来というには余りにも範疇を超えている。
そんな凶暴な植物たちの捕食部位が、飢えた野獣のように時を待っているのである。
「信じられねえ。こいつら、まるでここで何が行われているのか理解しているみてえじゃねえか」
正太郎は、この状況があまりにも異常であることを理解した。
なぜなら、このヴェルデムンドの大地に根付く植物が、いくらこの世界のヒエラルキーの頂点に君臨している存在だと言っても、このように人類の行動を察してまで行動するような知能を今日まで確認できていなかったからだ。
まして、グレイピーナッツのような低能力を絵に描いたつる植物の一組織でしかない存在が、擬態化してまで捕食を待ち構えている。この状況に違和感を覚えずに、いつ違和感を覚えられるものだろうか。
「どういうこったい。何なんだよこれは!? まるでこいつらに知能が芽生えちまったみてえじゃねえか! まるで人間の心を読み腐っているみてえじゃねえか!」
事実を受け入れるという行程は、時に人間にとって酷なものである。それが今、羽間正太郎のみに起きているというのだから、それこそ過酷そのものである。
これらの状況を踏まえるに、目の前で行われている両軍の交渉の是非に関わらず、これらの肉食系植物の大群は間違いなく捕食の機会を窺っていることが分かる。
つまりは、ベムルの実が割られようが割られまいが、これらの大群が寄留地を襲い、捕食の限りを尽くすことになるということだ。
「間違いねえ。こいつら進化してやがる……」
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