激突の⑨
正太郎が少年時代に、いつも彼の特異な能力を後押ししてくれていた人物たちがいた。その中でも特に
二人は、正太郎の感受性の鋭さに一早く気づいていたが、両者自身には彼のような直感的な能力を確認できなかった。にもかかわらず、二人は彼の後押しに余念がなかったのだ。
人間と言うものは、自分がその能力を有していなかったり、またそのように一度たりとも経験していなければ、目の前に既成事実が転がっていたとしても認識出来ないのが普通なのである。
「だが、あの二人は違った。悠里子はいつも俺の心の支えになってくれていたし、じいちゃん博士は俺の為にフェイズウォーカーに乗るための道しるべを授けてくれた。今度は俺が何かをする番だ……」
羽間正太郎の人生は迷い道の連続だった。
特に、あの悠里子を始めとした日次一家が巻き込まれたハイジャックテロ事件があってからというもの、彼は人生の方向性を見失い、真っ当とは言えない日の当たらない稼業に手を染めたりもしたものだ。
そしてヴェルデムンドの戦乱を迎え、自らの才能を発揮しつつ反乱軍の伝説の兵士とまで呼ばれる活躍を見せたまではいいが、考えの方向性の違いから一線を退き、仲間を置いて失踪までしてしまった。
時には戦闘力を買われ兵士として活躍し、時には作戦参謀としての腕を買われ反乱軍の中心人物として期待されたりもしたが、実のところ彼は何も成し遂げてはいないのだ。
そういった虚しさを常に胸に抱いている以上、彼は一生悠里子らの幻影から脱することが出来ないのだ。
「ゲネックのおやっさん、俺はアンタの好意に甘えてこの土地に辿り着いちまった。そして、訳も分からずこのヘンテコな状況に出くわしちまった。それはきっと、アンタが天から俺のこの情けねえ姿を鼻で笑いながら発破を掛けてくれている証拠なんだろ? ――分かったよ、やってやるよ。悠里子、じいちゃん博士、そしてゲネックのおやっさん。俺ァ、アンタらの無性に根拠の感じられねえ熱い期待に応えてやるからな、よーく目ん玉ひん剥いて見ててくれよ!」
そう決意した瞬間である。今まで認識できていなかった物の正体が、彼の意識の中に浮き彫りになって来たのである。
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