激突の⑦

 

 これが巡り合わせというものだろうか。

 今まさに、正太郎が沼に架かる大橋を渡り切り、ブラフマデージャの一の関門を抜けようとした時、ペルゼデール軍の旗印を掲げたフェイズウォーカー方天戟の軍団と、それと対峙するフェイズウォーカー“チャクラマカーン”の軍団とが睨み合いの状態であった。

 “チャクラマカーン”は、大国であるインドの資本が中心となって開発した高性能のフェイズウォーカーである。高出力のレーザーソード二振りに、連続射出可能な投擲武器“円月輪チャクラム”の威力は絶大で、近接戦闘、準近接戦闘に特化した一撃離脱型の戦闘マシンである。

 しかし、方天戟のような中距離型射出武器を有していないがために、広範囲での戦術的な戦闘には乏しく、機体バランスを保つためのセンサーに難点があるために、扱う者にとっては非常に難易度の高い機体になってしまっている。

「なんてこった、の連中の機体は二十五機。そしてどこの組織かは知らねえが、ブラフマデージャ側の機体はざっと見て五十機近くはある。こんなに数の違いがあって睨み合ってるってこたあ、こりゃあやっぱりあれか……。連中、ベムルの実をエサに脅しをかけていやがるんだな」

 いくら戦術的に優れた機体の方天戟であっても、倍の戦力差で攻撃を仕掛ける筈がない。

「何を焦っていやがるんだ、鳴子沢さんは……」

 先日の命知らずな運送屋の情報を鵜呑みにしたとすれば、この交渉は無謀もいいことろである。

 以前の破竹の勢いのあったペルゼデール軍ならいざ知らず、交渉自体に邪魔が入り、敵味方共々甚大な被害を受けたという噂があったばかりである。

 にもかかわらず、まるで昨日の今日のように間髪入れず同じような手で打って出るなどと、通常の戦術論では考えにくい事である。

「これじゃまるで、自分から野獣の檻に飛び込んで行くみてえな感覚だ……」

 正太郎は、ホバー型輸送機の車窓から身を乗り出してその光景を眺めていると、ある状況に気づく。

「なんだ、この感覚は!? まるで背中から誰かに見張られているみてえな……」

 両軍が睨み合って動かないでいるところを、正太郎の背中越しに、まるで大勢の見物人に監視されているような威圧感が襲って来たのだ。

 そう、その感覚を一言で表すのなら、

「俺たちは、とんでもねえ数の何かに狙われている――」

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