激突の⑥

 その翌日の明け方には、正太郎の輸送機もブラフマデージャが位置するエリアに到着した。

 到着したと言っても、この世界は巨木と巨大な植物に覆われた大地であり、遠目から目視できるわけではない。彼らは一定の距離に設置されたビーコンによる信号と、長年の経験による勘を基にしてその土地の方向と位置を察知するのである。

 GPS衛星や偵察飛行技術といった手段は、意思を持つ巨大植物が故意に邪魔をする。ゆえに、この世界ではこのやり方が現在の主流となっている。

 戦乱の以前から、第十五寄留ブラフマデージャは、地球からの渡航玄関口と呼ばれている次元ターミナルから最も離れた場所に位置するため、地球からの人材や物資といった必要不可欠なものが不足しがちな場所だった。

 それゆえに、戦乱後もヴェルデムンド政府の監視体制も緩く、三次元ネットワークやヒューマンチューニング技術が発達してもあまり浸透せず、独特の雰囲気が漂っていた。

 よって、非公式な自治組織が所々に幅を利かせているのが当たり前で、その結束たるや血の繋がりを超えた凄まじいものがある。

 中でも、アヴェル・アルサンダール率いる“黄金の円月輪ゴールデンチャクラム”と銘打った自治組織は特に強力で、さすがのヴェルデムンド政府の治安維持部隊も敢えて手を出さない程であった。

 羽間正太郎は、黄金の円月輪の現在の頭首であるアヴェル・アルサンダールの父親、ゲネック・アルサンダールとは戦乱前からの付き合いがあったが、息子のアヴェルとは面識がなかった。

 父のゲネックは、ヴェルデムンドの戦乱で“自然派”側に付いて正太郎と共に戦った勇敢な戦士であり、地域の民衆を一手にまとめ上げるだけの器量を持った武骨な老兵士であった。

 そのヴェルデムンドの戦乱が終結し、正太郎が表舞台に顔を出さないでいた頃、風の噂でゲネック・アルサンダールの病没を知らされた時には、彼は一つの時代が終わったような郷愁の念に囚われた。

「羽間正太郎、お主ほどの男に余程の事情が出来た時には、我らが土地に遠慮なく来ると良い。その時は我ら一同、命を投げ打ってでもお主の助けになるだろう」

 戦乱時には、いつもこのような事を言ってのけるほどの仁義に厚い男であったために、正太郎はどこか理想の父親像にも似た心の支えにしていたところがある。

「まったく……相棒は目を覚ましてくれねえし、そんでもって小紋やマリダもおいそれと顔を合わせられねえ状況になっちまった。情けねえ話だが、どこか人恋しくてしょうがねえんだろうな。ゲネックのおやっさんよう。俺ァついつい、アンタの言葉に甘えちまって、こんなブラフマデージャくんだりまで足を運んじまったぜ」

 

 


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