激突の⑤
正太郎が、第十五寄留ブラフマデージャに立ち寄ろうとした時、彼は途中のレストハウスでその噂を耳にした。
「確かこの間全滅しかけた寄留地ってなんて言ったっけ?」
それは、隣のテーブルを囲んで昼食を摂っている運び屋たちの何気ないやり取りだった。
「ああ、第十三寄留のムスペルヘイムだろ? ありゃ悲惨な話だな」
顔半分がごま塩髭で覆われた厳つい男が、分厚いヴェルデ牛のステーキを頬張りながら話す。相手は、身長が二メートルにも近いやせ細った大男だった。
大男は、味付けの濃そうなソースたっぷりのパスタを口元まで運ぶと、
「そうそう、だってよ。今勢いに乗る
二人は途端に会話に夢中になり、手を止めた。
「だわな。それだけ死人が出りゃ、その後の寄留地の治安も何もあったもんじゃねえからな。そんな作戦は手前口上の建て前に決まってらあな」
「でもよ、何でペルゼの親玉は、建て前でもそんな卑劣な真似して見せるんだよ。オラ、それが分かんねえんだ」
「馬鹿だなおめえ。そりゃあ……えーと、何だ……」
「何だよ、てめえも良く分かんねんじゃねえか。全くてめえはいつもいつも知ったかぶりしやがって!」
「なんだと!? じゃあ、おめえに何が分かるってんだ!」
「何だよこのう!」
昼食そっちのけで胸倉を掴み合う男共を横目に、
(ほう、そんなことがあったのか……。きっと鳴子沢さんのことだから、相手の意識を一点に集中させるためにそんな七面倒臭えことしたんだろうな。まあ、分からなくもねえ話じゃねえがな)
と、正太郎は食後の茶をすする。
とにかくヴェルデムンドで運び屋を生業としている男共は何かと大声を張り上げて揉め事を起こす。だがそれは仕方のないことで、毎日のようにこの危険極まりない世界を渡り歩くのだから、そのストレスたるや尋常な精神力ではやって行けない。
だが、そんな気性の荒くガサツな男共だが、その情報網は三次元ネットワークに匹敵するものがあり、そうそう馬鹿に出来るものではない。なぜなら、その情報こそが彼らの目を通して実際に得られたものだからだ。
たとえ他人の感覚までも正確に伝えられる三次元ネットワークとは言えど、得られた情報をネットワーク上にアップロードしなければ、第三者に伝えることは出来ない。ゆえに、こういったアナログなやり取りの言葉の中に、今現在でも不可欠な情報が埋もれていたりもする。
このような生の情報は、今の正太郎にとってとても有難いものだった。
(ということは、鳴子沢さんの作戦を知った上でベムルの実を割った奴がいるってことじゃねえか。こりゃあ、とんでもねえことになるかも知れねえぜ)
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