激突の④


 大膳らペルゼデール・オークションの画策では、禁断のベムルの実を脅しに使えば必ず第十五寄留は降伏すると高を括っていた。

 事を計画した鳴子沢大膳としても、脅しは建前上の作戦であり、事実上は血を流さず事を穏便に実行するための平和的な解決策だと思っていたのだ。

 だが、この作戦は第十五寄留ブラフマデージャの住民にかなりの反感を買ってしまったのは言うまでもない。何より彼らの心に火を点けてしまったのは、ペルゼデール・オークションという大国にもなろうとしている存在の裏切りに対しての反抗心である。

 その道理とは、子が親を憎む様子によく似ている。

 世間一般に、子供が親を一生憎み続けるという様は珍しくない。

 ではなぜ、子が親に対して反抗心を持つのかと言えば、それは親が子の抱いている期待に応えられていないからなのである。

 子は、親に対して無償の愛情と、成長をする上で必要不可欠な物理的な物を求めてくる生き物である。だが、そういったものに対して期待に添わないと、子供は不満を抱くようになり、次第にそれが憎しみに変わることさえある。

 第十五寄留ブラフマデージャに身を置く住民は、ヴェルデムンド政府の掲げた機械神の裏切りによってかなりの不満を抱えていた。

 そして今回のペルゼデール・オークションの脅しである。

 彼らの寄留地は、この世界に一番最後に建設された人工都市で、経済的な循環はおろか、先の戦乱によってインフラ整備も未だに遅れている地域なのだ。

 どんなに科学が進歩し、ヒューマンチューニング技術やフェイズウォーカーの技術等が発展したとしても、街の土台がしっかりしていなければ意味が無い事を、この第十五寄留は証明してしまっているようなものなのだ。

「だから言ったじゃねえか。鳴子沢さんよう。交渉は相手の事をよく見てから行うもんだってよう」

 羽間正太郎は、未だ駄々をこねて動かない烈太郎を輸送機に乗せたまま、第十五寄留に立ち寄った際に、その事変に遭遇した。

 正太郎には、大膳が画策したと思しきこの作戦にどのような真意があるかということは理解できていた。だが、

「それはここの連中には洒落になってねえぜ。第十五寄留、ブラフマデージャは古式ゆかしい日本じゃねえんだからな」

 というわけである。

 信じていたものに裏切られる行為ほど、人間にとって残酷なものはない。

 大膳らがヴェルデムンド政府に反旗を翻し、革命を起こした真意とて内容は同じこと。

 にもかかわらず、大膳らペルゼデール・オークションはそれをブラフマデージャに対して行ってしまったも同じなのだ。

「相手に擦り寄って期待に添うか、独断が勝手に期待に応えてしまうのか。それが一番難しいんだぜ? 鳴子沢さんよう」



 

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