⑪ページの騎士


 セシルの悪い予感は当たっていた。

 彼女が戦闘中に気がついてしまった事実。

 その一つ目は、自らが何らかの大きな思惑に巻き込まれてしまっていること。

 そして二つ目が、人工知能がこのひと月の間に発達しすぎていること。

 確かにこれまで、マリダ・ミル・クラルインのような優秀で名高いアンドロイドや、羽間正太郎の愛機である烈風七型高速機動試作機に搭載された烈太郎に代表されるかなり人間寄りの人工知能は存在した。

 しかし、そのユニットはそれぞれが超高性能の試作品で、セシルのような一般兵がおいそれと手に入れられる代物ではない。

 まして、それらの人工知能の順応性や感応性を高めた要因は、それらを育てた環境や相手の人間性によるところが大きい。

 一言に人工知能と言っても、所詮は相手があっての個体である。環境に反映されて初めて自己が確立する。

 旧来、人工知能が開発され、自律型のアンドロイドが世に出回った時代には、その概念と機能を有していなかった。それゆえに、人工知能と人間とのコミュニケーションには不確かで不釣り合いのやり取りしか見受けられなかった。強いて言えば、家で飼っている犬や猫といった、ペットに対してのコミュニケーションをしているような、分かっているようで分からないことだらけの連続であった。

 しかし、セシルが感じたこのやり取りは、もう人間とやり取りをしている以上の感覚がある。

「これじゃまるで、超能力者と話しているみたいだわ……」

 何故か、セシルには時間も空間も越えて、心の奥底まで見透かされているような、何とも言えない恐怖めいた感覚が膨らみ始めていた。

 そんな別次元から舞い込んできたような存在に、セシルは無意識に打ち震えて言葉が出なくなってしまった。

「ドウシマシタ、曹長? 急にバイタルサインに乱レガ生じてイマスガ」

「な、なんでもないわ……。ちょっと考え事をしていただけ」

 取り繕うセシルに、ネフィリムはスッと近寄りつつ、

「ナニモ怖いことはアリマセンよ。ワタクシの言う通りニシテクダサレバ、ソレデ万事解決デキマス。セシル・セウウェル」

 そう言って、彼女の顎にそっと手を添えて微笑んで来た。

 セシルは、どうしようもないほどネフィリムの妖しい笑顔に魅了されてゆくのが分かる。

 しかし――

(た、助けて勇斗――。私このままじゃ、何か、変になる――)

 彼女はそれと同時に、背筋を通り抜けてゆく凍りつくような何かも感じていた。



 ※※※






 

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