⑦ページの騎士
「セシル曹長、ワタクシが安全ダト確認デキルマデ、外ヘハ出ないデクダサイ」
ネフィリムは、先程撃ったヒットマン以外にも敵がいるかどうかを空間スキャニングした。しかし、今のところ近くに人影はない。
「オカシイデスネ。ワタクシが同様の作戦ヲ実行スルノナラバ、モウ一人か二人ハ配置スルトコロデスガ」
「ええ、同感だわ。こんなルール無用の作戦を仕掛けてでも戦闘を行おうという相手が、これしきの事で済むはずがないものね」
今回の対戦相手であるミシェル・ランドンという女は、手段を選ばない性格であることがこれで証明された。
この対戦場の地形や視界が最悪であることをいいことに、彼女は自分以外の人物を潜ませてまでセシルを打ち負かそうとしている。そして、結果的に勝てば自動的に自らの目的にありつけることを確信している。
「ということは、もしかすると私はまんまと嵌められちゃったってこと?」
セシルはグッと顎を引いた。
「エエ、ソノヨウデス。ワタクシ思うニ……ミシェル兵士長ハ、ハジメから査問委員会のダレカに通ジテイテコノヨウナ対戦ヲ仕掛けてキタト予測サレマス」
ネフィリムは、人工知能らしい状況精査を行っていた。
言わば、今回の対戦騒ぎはミシェル・ランドンによって仕組まれたものであることは間違いないが、それをあっさりと認めた査問委員会の委員の中にミシェル・ランドンと通じている何者かがいるのではないかという見解なのだ。
それが証拠に、この対戦で仮にヒットマンがセシルを撃ったとして、その撃ったことの事実をもみ消すことが出来る人物が後ろ盾に存在していなければ、この対戦はルール上成立し得ないのだ。
「これはマズいわね。ある意味四面楚歌ってことかしら。これで私が圧倒的に不利な事だけは理解できたわ」
「イエ、セシル曹長。ある意味、デハナク、確実ニ四面楚歌デアルト断言シマス」
ネフィリムは真っ向から言い切る。
と同時に、セシルは深くため息を吐いた。こんな時だからこそ、お気楽な言葉を選んでおどけて言って欲しかったのだ。
「セシル曹長、アノヒットマンハ、どうやらドールのヨウデス。狙撃専門ノ」
ネフィリムが生態スキャンを行うと、全体的にアンドロイド反応が検出された。そしてそこにしっかりとアンドロイド用の識別コードが浮かび上がるのだが、用意周到に個体ナンバーだけが削ぎ落されている。
ここまで本格的に計画されたとあれば、さすが実践経験のあるセシル・セウウェルであったとしても浮足立たずにはいられない。しかも最悪なことに、
「セシル曹長、このドールの腰ノ辺りヲ良く見てクダサイ」
と、ネフィリムに促されて見た物は、なんと腰ベルトのケースからこぼれ落ちた“ベムルの実”であった。
「な、なんでこんな危険な物を……!!」
彼女があまりにも驚愕を禁じえないのは、通称ベムルの実と言って、このヴェルデムンドの大地では災厄を引き起こす木の実として忌避されている物だからである。
なぜなら、このベムルの実をひとたびかち割ると、その子房の部分から人間や機械には感じ得ないフェロモンが舞い出て来て、“ヴェロン”と呼ばれる巨大な怪鳥に似た肉食植物を呼び寄せてしまうという特性を持っているからなのだ。
その昔、この大地に人類が降り立ったころ、それを知らなかった人々はベムルの実を食料にしようとして叩き割ってしまったために、怪鳥植物ヴェロンを大量に呼び寄せてしまい、その移民団が全滅してしまう事故が多発していたぐらいである。
そのような危険な物まで持ち出されているからには、セシルの胸中も穏やかではない。
「なんて女なのかしら。私はとんでもない子を相手にしてしまったのね」
「ハイ、危険極まりナイベムルの実ヲ持ち出シテ来るナドトハ、ワタクシモ思いモヨリマセンデシタ。デモ……」
「でも? でも、何なのよ、言って見て」
「ハイ、ダカラコソ、モシカスルト勝テルカモシレナイト思うのデス」
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